インド洋に浮かぶ小さな島・モーリシャスは、アフリカの東海岸沖にあり、地理的に言えば、マスカレーネ諸島の一部です。元々は火山で、島の周りはほとんどサンゴ礁に囲まれています。シルクのような砂のビーチ、美しい山々、滝、熱帯雨林、さらには野生生物が生息するとても美しいターコイズブルーの海 - それが私の島です。

残念ながら、「わかしお」の事故以降、事態は悪化しています。日本が所有するパナマ籍の貨物船「わかしお」は、軽油200トン、重油3,800トンを載せて運航していましたが、モーリシャス沖のサンゴ礁周辺で座礁し、1,000トンが海に流出しました。

船を所有する長鋪汽船は、460トン以上の油を回収したと発表しました。しかし、衛星写真によると、流出した油は今週、約26平方キロメートル以上の範囲に広がっており(最新の衛星分析によるとさらに拡大しています)、流出が始まってから8倍以上広がってしまいました。また衛星写真は、ポワントデズニーでサンゴ礁に衝突する数日前に、船は、巡航速度を保ったまま、サンゴ礁に直接衝突するコース上にあったことを示唆しています。生態学的にも重要なエリアで、です。

島の暮らしは、サンゴ礁と共にある

ここには、素晴らしい海洋生態系が広がっていて、固有の鳥類、植物、動物が生息する小さなサンゴの島・エグレット島(Ile aux Aigrettes)も位置しています。サンゴ礁は漁業や観光を支えてくれているだけでなく、高潮やサイクロン、異常気象から海岸線を守る役割も果たしています。地球温暖化によって海面上昇や異常気象の発生率が増すなか、サンゴ礁は不可欠な存在なのです。

モーリシャスのいくつかのビーチでは、海面の上昇とサンゴの生態系の弱体化により、サンゴ礁はここ数十年で20メートルも縮小しています。地球温暖化が加速すれば、海岸線の侵食と喪失が進み、ますます沿岸部で暮らす地域コミュニティに迫り、海水が地下水にも浸透してくる恐れがあります。

今回のような油の流出は、マングローブやサンゴ礁などに有毒で、海の生きものたちにも影響を及ぼします。世界の海運業界は、このような悲劇を繰り返さないために、事故の責任を取って、できる限り早く化石燃料を使わないように切り替えることが必要です。そして、モーリシャスの人々を支援して、石油流出と汚染による影響をできるかぎり軽減し、現地で長期的な影響を調査し、自然を回復させるために努力するべきです。石油災害を、回収作業だけで「なかったこと」にすることは決してできないからです。

海とともに生きる人々のコミュニティが破壊されている

この事故は、これから何十年にもわたってサンゴ礁へ影響する大災害となりました。それは、海とともに生きる地域コミュニティにとっても同じことです。海が、食べものや命の源であり、海を愛して育った人にとって、海を脅威と見なさなければならないことは、本当につらいことです。海とのつながりの上に築かれた文化やコミュニティが、破壊され、居場所を失っています。私にとっては、強く心を痛めるものです。流出事故が起きているラグーンは、私の家族の多くが住んでいる場所でもあります。

モーリシャスは、私が知っている地球上で最も美しい場所の一つです。 そして、その場所が人間の活動によって破壊されています。モーリシャスでどれだけ深刻な影響が出るか、また、マンローブやサンゴ礁などの自然環境がどれだけ早く回復できるかを予測するのは非常に難しいことです。生態系の複雑さ、どのような混合油が流出したか、どのように「回収」をするかなど、状況を左右する要素がたくさんあるからです。この事故は避けられたかもしれません…。

わらを集め、髪を切り、一丸となるボランティアたち

重油流出事故の後、海辺を散歩する家族連れの姿は、海岸を守るために草の根の努力をしているボランティアたちの姿に変わりました。地元の人々や活動家などのボランティアが、サトウキビの畑からきびがらを集めて自家製のオイルフェンスに詰めたり、髪の毛を切ったりして、何キロもの海岸に沿って回収活動を展開したおかげで、油膜の拡大を阻止し、油を吸い上げるという大きな成功を収めました。アフリカの東海岸沖の絵のように美しい国の周辺海域に流出した推定1,000トンの油を封じ込めるために、すべての島民が一丸となって努力しています。

モーリシャス政府はボランティアに対して、回収活動をやめて、対応を当局に任せるように指示しました。しかし、住民や地元のグループは、油の汚染をそのままにしておくより、罰金や逮捕のリスクを負う方がいいというように、フェンスを作って設置するボランティア活動を続けています。地元の人々は、政府の対応の遅さや行動の欠如について、みんなが不満を抱えています。事故が起きてから石油が流出するまで、12日間もあったんですから!

モーリシャスの人々の連帯感に圧倒されています。

私たちの一息ひと息が、別の命に依存している

人類は今、生態系の崩壊という、悪性の病的過程にあります。森林伐採、汚染、湿地の乾燥、気候変動、グローバル化などの現代生活の要因は、これまでにない速さで種を一掃し、生態系に損害を与えています。人類は、文化という手段を通じて、地球の生態系をも変化させる支配的な力になっています。 (権力を持つ人々や組織の過失と不注意がそれを許したままにしています。)

石油流出が象徴するように、私たちは地球に多大な損害を与えてきました。しかし、明るい面に目を向けるならば、私たちは考え、行動を選択し、解決の一助になることができます。

この母なる地球で生きる私たち人間は、過激な住民になるのではなく、私たちのすべての呼吸は、別の命、別の生きものたちに依存していることを、いつも心に留めていなくてはいけないでしょう。

寄稿:ハンス・グヌー

私は動物と地球環境、そして私の家族と私の小さな楽園、モーリシャスを愛しています。