2020年7月、梶山経済産業大臣が、100基ほどの「非効率」な旧式石炭火力発電所を休止または廃炉にすると公表しました。これは日本の気候・エネルギーの議論を前進させる重要なステップですが、十分なものと言えるでしょうか。

世界中で脱石炭が進む中で、日本でも既存の石炭火力発電所の多くを休廃止するというこの発表は、大きな第一ステップになりうるものです。

発電の30%を石炭火力に依存している日本には、約140基の石炭火力発電所があり、そのうち114基が「非効率」な旧式石炭火力発電所に当たります*1。今回約100基を休止または廃止する場合、旧式石炭火力発電所の9割をなくすことになります。

既に「新体制」を高く評価するニュースも出されていますが、地球環境や私たちの暮らしにとって、いいニュースばかりではないことがわかります。その2つの理由を見ていきましょう。

南インドの石炭採掘場。2016年

理由1: “旧式石炭”が廃止されても、石炭発電の総量は変わらない

まず、国内で約100基の旧式石炭火力発電所が休廃止されても、既存の石炭火力発電所と建設予定の「高効率」石炭火力発電所を合わせると、総発電量は計約30ギガワットにのぼり、現在の国内の石炭火力発電量はほぼ変わらないことになります。脱炭素が進むわけではないのです。

「高効率」の石炭火力発電所に置き換えるといっても、旧式のものより20%ほど効率がアップしますが、依然、他の発電方法よりも多くのCO2を排出します。

現在の枠組みでは、国内外に「脱炭素」に向けた、具体的な数値などを設ける義務はありません。「脱炭素に向けて進んでいる」とさえ主張すれば、日本はいくらでも新たな石炭火力発電所を作っても問題ない、ということになってしまいます。

理由2: ベトナムやバングラデシュに石炭火力発電所を建設中

国内で脱石炭を進められていない現状に加え、日本は海外にも積極的に石炭発電技術を輸出しています。

特に懸念されるのは、ベトナムのVung Ang 2発電所とバングラデシュのMatarbari発電所です。国際協力銀行(JBIC)やみずほフィナンシャルグループなどの日本の大手金融機関が融資を行っているVung Ang 2発電所は、2016年に発生し、ベトナム最大の海洋汚染となった、製鉄所の有害排水流出事故*2の現場近くに位置し、2018年の環境アセスメントでは、事業によって生じうるリスクが過小評価されすぎていると批判されました。

そのうえ、Vung Ang 2発電所に適用されている環境基準は、日本やアメリカなどの経済先進国で定められている基準よりも、低く設定されています。国内の基準を満たさない低い環境基準を、海外事業では用いるという、二重基準を使って事業が進められています。

バングラデシュのMatarbari発電所の場合、発電所の建設により、住民が強制的に移住を強いられたうえ、賠償も不十分だったとの疑いがあります。建設工事によって、自然に海に流れていくはずの雨水が溜まるなどして洪水が起こり、2018年の台風では、地域にある31の村の中で、22の村が浸水してしまいました。

7月に豪雨に襲われた熊本県の被害を見ても明らかなように、気候変動の影響はすでに日本に及んでいます。こうした被害に直面している一方で、脱石炭を進めているようで実際には進んでいない日本のエネルギー政策は不十分です。

去年スペインで開催されたCOP25国連気候変動会議に小泉進次郎環境大臣が出席し、日本の遅れている石炭政策とエネルギー体制について厳しい批判を受けました。脱炭素と脱石炭が速やかに進んでいる欧州に対し、経済大国の日本は、石炭火力発電を増やそうとしている唯一のG7メンバー国です。

詳しく読む:【祝】30年のキャンペーンの快挙!スペインの石炭火力発電所の終わり

世界の国々とともに合意したパリ協定を実現しようとするなら、日本は一刻も早く、本格的な脱炭素政策を導入することが必要です。

私たちにいまできること

グリーンピースは2018年から、海外の金融機関と連携して銀行に働きかけたり、株主として株主総会で発言したり、銀行の投資先に関する調査結果を発表したりして、銀行が石炭ではなく自然エネルギーへ投資するように働きかけてきました。

みずほ、三井住友などの国内の大手フィナンシャルグループは、石炭事業への投資を制限する方向に動いています。気候変動を抑えようという私たちの声を聞いて、脱石炭を進める世界の銀行とも足並みを揃える決断です。しかし、特にヨーロッパの銀行などの世界の水準と比べると、動きはとても遅く、最低限の方針に止まっています。安全な未来のために投資しようとする銀行の動きをさらに前に進めるために、これからも活動を続けていきます。ぜひ、一緒に銀行に声を届けてください。

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