長い間石炭に依存してきたヨーロッパの国々が、国内の石炭火力発電所の閉鎖を発表し、徐々にエネルギー転換に向かっています。2030年までに二酸化炭素排出量を65%削減するという目標まで、あと10年しかありません。日本は、その準備ができているでしょうか?

新型コロナウイルスの流行によって世界的に景気が後退したことは、エネルギーの転換にも影響しています。工場が閉鎖され、電力消費が削減されたことで、「石炭の終焉」の流れが加速し、自然エネルギーへの転換が進んでいます。

7月15日、素晴らしいニュースがスペインから舞い込みました。

スペインは、2025年まで石炭火力発電所を完全に閉鎖し、スペインでの石炭火力発電の歴史に幕を下ろすと発表しました。気候変動を抑えるために石炭火力発電をとめる活動を続けてきたグリーンピース・スペインとサポーターのみなさんによる、30年間にわたるキャンペーンの成果が出ました!

2018年11月、70名のグリーンピース・スペインのスタッフとボランティアが、電力会社エンデサ社の石炭火力発電所の外で「End Coal 石炭を終わらせよう」というバナーを掲げ、石炭火力発電所の閉鎖を求めた。 ©Pedro Armestre / Greenpeace

スペインの脱石炭の軌跡

スペインで4番目に大きいエネルギー会社であるEDP​​は、最後の2つの石炭火力発電所である、ソト・デ・リベラ発電所とアボニョ発電所を、段階的に廃止することを発表しました。*1ソト・デ・リベラ発電所は廃炉に、アボニョ発電所1号機は燃料を転換し、2号機は最終的には緊急事態時のバックアップ用に残ります。 これによってEDPは、すでに石炭火力発電所の閉鎖計画を発表していたスペインの競合他社の脱石炭の動きに加わることになります。

スペインには15基の石炭火力発電所があります。そのうち7基は今年6月30日に操業を停止し、他はすでに閉鎖済みか、閉鎖が申請されています。*2

このうちのいくつかの石炭火力発電所は、他には主な産業がない街にありますが、労働者にとっても、公正な移行となるように配慮もされています。廃炉作業が仕事を産み出すほか、環境移行省(MInistry of Ecological Transition) は、影響を受ける地域で、自然エネルギーを中心として新たな職を創出することを、電力会社に強く求めています。*2

なぜ石炭火力発電に未来はないの?

スペインは長い間、石炭火力発電に大きく依存してきました。政府は国内の炭鉱計画と石炭火力発電を長期にわたって支援しており、石炭を終わらせる障壁になっていました。しかし、2019年以降、スペインは化石燃料の使用削減を加速し、ほかの西ヨーロッパ諸国よりも早く自然エネルギーに切り替えました。

スペインのアンダソル1太陽光発電所は、20万人に電力を供給し、毎年149,000メートルトンの二酸化炭素排出量を削減できる。 ©Greenpeace / Markel Redondo

RedEléctricadeEspañaによって提供されデータによれば、2018年の石炭火力発電は、スペインの電力の14.3%を占めていましたが、わずか1年で2019年には5%に低下しました。この割合は過去40年で最も低く、2017年よりも70%低くなりました。近年、自然エネルギーは、電力の36.8%と急増しています。スペイン政府も気候法を可決し、2030年までに自然エネルギーによる発電は、74%に達する計画です。*3

でも、スペインが石炭火力発電を段階的に廃止することを決めたのはなぜでしょうか?

石炭火力発電が”斜陽産業”になっていることは、多くの側面から明らかです。石炭の採掘と製造のコストは年々の増加し、炭素排出によって税負担は増え、自然エネルギーや天然ガスが低価格になったことで、石炭火力発電の需要は急激に減少しています。長年にわたる巨額の損失により、政府と電力会社は、石炭火力発電で”別れる”ことに決めました。

スペインのアンダソル1太陽光発電所は、20万人に電力を供給し、毎年149,000メートルトンの二酸化炭素排出量を削減できる。 ©Greenpeace / Markel Redondo

EDP社のCEO、Miguel Stilwell d’Andrade氏は、「石炭火力発電を閉鎖するという決断は、エネルギー転換において予想されていた結果でした。EUのカーボンニュートラルに向けた目標を達成するためには、従業員に対して、この移行期間に必要なトレーニングを実施するなどの施策を実行することも必要です」と話しています。

30年間のキャンペーン

1990年には、グリーンピース・スペインは現地最大の電力会社エンデサ社に対し、炭素排出を削減するように訴えていました。同社の最高経営責任者に対して裁判を起こし、石炭火力発電所による環境汚染に責任を取るように求めました。当時、石炭は依然としてスペインの主要な電力源で、炭素排出量も最も多いものでした。グリーンピースは、まだ「地球温暖化」という言葉も普及していない時、石炭への反対を表明し、議会に地球温暖化へ向き合うよう促したスペインで最初の組織でした。

2008年、グリーンピースはAs Pontes石炭火力発電所の煙突の外壁に「Quit Coal 石炭をやめよう」という言葉を投影。この発電所はスペインの石炭の20%を消費し、ヨーロッパで最も汚染度の高い発電所の1つ。 ©Greenpeace / Jiri Rezac

2015年12月に「パリ気候協定」が可決されてから、地球の平均気温の上昇を1.5度以内に抑えるために、炭素の排出を抑えなければいけないという認識が広がりました。

グリーンピースは、より積極的に、化石燃料から自然エネルギーへ移行する労働者への影響を考慮しながら、石炭火力発電を廃止するよう求めてきました。

2018年11月、70人を超えるグリーンピースのスタッフとボランティアが火力発電所付近の港で、スペイン最大の電力会社であるエンデサに石炭をやめるよう求めた。 ©Pedro Armestre / Greenpeace

石炭火力発電所の前に「End Coal 石炭を終わらせよう」を求めるプラカードを掲げたり、石炭による人の健康と気候への影響についての研究報告書も発表したりしました。同時に、現地のグループと協力して、関連するヨーロッパ諸国や自治体の政治家、電力会社とも面会し、炭素を削減する必要性への認識を高めてきました。 30年の継続的なキャンペーンの末、2020年後半にようやく結果が出ることになったのです。

2018年11月、グリーンピース・スペインが火力発電所の煙突に太陽を描き、気候変動を遅らせるために化石燃料をやめ、自然エネルギー100%へ進むよう訴えた。 ©Pedro Armestre / Greenpeace

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2050年までにカーボンニュートラル(炭素排出量実質ゼロ)に到達することをEUの炭素削減基準としていて、EUは2030年までに温室効果ガス排出量を少なくとも40%削減することを目指しています。しかし、この目標は気候危機から暮らしを守るためにはまだ不十分です。EUは排出削減率を65%に引き上げ、より包括的な炭素税と開発政策を進める必要があります。

日本はどうする?

スペインは石炭を段階的に廃止する第一歩を踏み出しました。ドイツは7月初旬に2038年までに国内の石炭火力発電所を段階的に廃止することを発表し、原子力発電は2022年までに段階的に廃止し、エネルギー転換のパイオニアになるとする法案を可決しました。

ヨーロッパの国々のこうした行動は素晴らしいものですが、日本で暮らす私たちも、気候変動を抑えることは、世界のすべての国々の責任であることを気づいているはずです。

スペインやドイツとは対照的に、日本は依然として石炭火力発電に大きく依存しています。2019年の発電の30%以上が石炭火力発電で、日本で燃料燃焼によって排出される1,098メガトンのCO2の39%が、石炭火力発電に由来します。(出典:IEA) 

日本の3メガバンクの株主総会に合わせ、持続可能な未来へ投資することを求めてメッセージを送った。©Masaya Noda / Greenpeace

日本でも、気候変動を抑えることに貢献するなら、二酸化炭素を大量に排出し、汚染物質も出す石炭などの化石燃料ではなく、自然エネルギーを積極的に増やす必要があります。

そして、スペインの例のように、いま石炭火力発電に携わっている人々の暮らしを守りながらこの移行を行うことが重要です。

スペインでキャンペーンの成果が実ったことは、政策を変えることで、ビジネスに影響を与え、企業の方向を転換させる可能性があることを示しています。企業が動くことで、政策をさらに前に進めることにもつながります。

政府や企業がより地球に優しい政策やビジネスを求める私たちの努力は、激化する異常気象を抑えることによって、最終的にはより安全な暮らしとして、私たちに還ってくることになります。

兵庫県宝塚市にある、畑の上にソーラーパネルを設置した、ソーラーシェアリング。自然エネルギーの開発のために土地と環境を犠牲にする必要はなく、コミュニティも経済も活発にする。 ©Greenpeace 

グリーンピース・ジャパンでも、石炭事業へ投資を続ける銀行への働きかけを、2018年から継続しています。銀行には、お金の流れを変えて、未来を形作る力があります。より安全な未来をつくるために、石炭ではなく自然エネルギーを増やすことに貢献してもらえるよう、ぜひ一緒に声をあげてください。かけがえのない日常を守るために、私たちの、そして次世代の未来を、一緒に守ってください。