近年インドネシアでは、世界最大級の製紙会社であるアジア・パルプ・アンド・ペーパー ・グループ(APP)が権利を所有する土地*で、数多くの火災が発生しています。その根本的な原因は大規模な森林伐採と泥炭地の破壊です。このような環境破壊により生息地を奪われ、さらに人間が仕掛けられた罠に追い込まれることで、既に絶滅の危機に瀕しているスマトラトラの生存がさらに脅かされています。

*コンセッション方式により、土地の所有者である政府などが発行する法的文書により権利を有する土地

製紙産業がスマトラトラの生息地に進入

世界最大級の製紙会社シナール・マス・グループと、同社にパルプと紙を供給するアジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)が管理する土地で5月18日、罠にかかったスマトラトラが発見されました。数日間にわたり水や食べ物を得られなかったことから死亡したと推測されています。ここは近年、インドネシアにおけるプランテーション用地の中でも最も火災の被害が大きかった地域でもあります。

生息地に仕掛けられた罠の針金に絡まり死亡したスマトラトラ。© Rony Muharrman / Greenpeace

大規模な森林伐採と泥炭地の排水が、インドネシアで広がる森林火災の根本的な原因です。これによりトラは本来の生息地を奪われ、元々あった縄張りのうちの非常に限られた地域に追い込まれています。

インドネシアは、世界で最も原生林の破壊が早く進んでいる地域です。製紙のほか、食品や化粧品に使われるパーム油のプランテーションも、森林破壊の大きな原因になっています。

グリーンピース・インドネシアの森林キャンペーン・リーダー、Kiki Taufikは、「生物多様性に富んだ国で森林破壊と野生動物の生息地の破壊が急速に進むと、トラなどの動物が人間と接触することになり、最終的には殺されてしまいます。新型コロナウイルスの蔓延に伴い、多くの人獣共通感染症の発症と森林破壊の関連性を示す証拠が増えています。森林破壊を止めることは気候や野生生物、さらに私たちの健康と将来を守るためにも非常に重要なことです。」と述べています。

APPが管理するパルプのコンセッション土地(オレンジ)内でスマトラトラが発見された場所(赤い点)とスマトラトラの生息地(黄色)示す地図。2つの地域が重なるところが多いことが分かる © Greenpeace

絶滅危惧種の生息地に罠

トラの検死を行った自然資源保護事務所によると、トラは1歳から2歳ぐらいの雄で、前の右足に傷を負い、おそらくその傷が原因で感染症にかかったとみられています。罠の近くで豚の死骸が見つかったことから、トラが密猟者に狙われた疑いがあります。今年はこれまでに、少なくとも他に2頭の野生のスマトラトラが、APPが管理する土地内で罠にかかりました。残念ながらそのうちの1頭のみが死亡する前に救出され治療を受けることができました。

動物を狙った罠にかかり死亡したスマトラトラ © Rony Muharrman / Greenpeace

2008年以降、密猟、生息地の消失、人間と野生動物との摩擦が続いています。スマトラトラは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに含まれる絶滅危惧種です。

約10年前に、グリーンピースが撮影した動画でAPPが権利を有する土地でトラが罠にかかり死亡したことが確認されています。今回のトラの死亡によって、この会社の暗い歴史が繰り返されたことになります。APPは森林伐採を止めると約束をしたにもかかわらず、森林と、泥炭地の開拓に複数回関与していることが明らかになっています。

スマトラトラは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの絶滅危惧種に分類されている © Paul Hilton / Greenpeace

森林はトラの唯一そして最後の生息地です。インドネシアを象徴する動物のスマトラトラを救うためには、数少ない残されたトラの生息域を人間の進入から完全に保護しなければいけません。

90以上の団体がインドネシア政府に法律を厳しく施行するよう求めています

作物の栽培のため、インドネシアの熱帯雨林は何年にも渡り製紙とパーム油産業によって伐採され燃やされている。その間に、トラ、ゾウ、オランウータンなど、熱帯雨林がないと生きられない野生動物がたくさん命を落としている。 © Bjorn Vaugn / BOSF / Greenpeace

2010年からグリーンピースは継続的にインドネシアの熱帯雨林の破壊の実態を明らかにし、世界の製紙会社とパーム油会社に森林破壊を止めるよう求め、また政府にも法律を施行し森林破壊の責任者を厳しく罰するよう働きかけてきました。2013年にAPPは森林破壊を止めると約束をしましたが、最近の調査から2015年から2018年の間にAPPが管理する土地で燃やされた森の面積はシンガポールの国土よりも広いことが分かっています。APPは現在もトラやゾウ、オランウータンが暮らす広大な森林や泥炭地を管理しています。スマトラ島では、APPが管理する土地で人間による破壊行為によって数多くの動物の死亡しています。

先週、90以上の現地および国際団体が、APPが森林と泥炭地の破壊を完全に止める運営改革を実施するまで、APPとの取引を一時停止するよう、APPの取引相手に呼びかけました。

アジア・パルプ・アンド・ペーパー ・グループ(APP)は広範囲の森林を破壊した © Kemal Jufri / Greenpeace

インドネシア政府は今、森林と泥炭地を守るために規制を強化しなければいけません。同時に企業はサプライ・チェーンにおける環境基準を留意し、森林破壊と動物の絶滅という悲劇を避けるための代替案を積極的に求めなければいけません。

スマトラトラの森林を守ろう

世界の森林は、火災や違法な材木切り出しの危険にさらされています。トラやオランウータンなどの動物たちは森林がなければ生存できません。あなたの助けが必要です。

森林は気候変動を抑える働きを持つとともに、多くの種の生存に必要な生息域でもあります。私やあなたのように自然環境を大切にしたいと願う人にとって、森林を守ることは共通のゴールです。あなたもグリーンピースと一緒に森林火災や森林伐採の情報を広め、政府や企業にも森林を守る責任を果たすよう呼びかけることができます。一人ひとりの小さな行動が積み重なることで、次の世代に美しい森林を手渡すための大きな力になります。グリーンピースの国際的なネットワークを活かした活動を支援するために、寄付で参加してください。

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