2023年8月30日のガソリン価格表。レギュラーリッター186円

ここ数週間、ガソリン価格が高くなり続けており、メディアでも話題になっています。中東産ドバイ原油の平均価格の上昇、円安傾向に加えて、コロナ禍中に導入された「ガソリン補助金(燃料油価格激変緩和補助金)」が縮小されつつあることなど複数の要因があるようです。さらには、しばらく前から進んでいる業界の再編によってガソリン・スタンド数そのものが減っており、価格競争は一時期に比べて下火になっていることも価格上昇の理由として指摘されています。今般の事態を受けて政府は補助金延長について検討に入ることが8月22日午後に報道されました。 

電車やバスのサービスが整備されている地域に住んでいれば、普段自動車を使って済ませる用事を公共交通にするということも可能でしょうが、通勤や通学のためにどうしても車が必要、というケースも特に地方では多いことでしょう。過去にガソリン価格が上昇した際に行われた調査から、自動車利用の抑制や他の消費節約の行動を取る人が一定の割合に達したことが判明しています1

一方で、ガソリン補助金を安易に復活維持させるのではなく、今回のガソリン価格上昇を機会ととらえるなら、給油は不要で走行時には二酸化炭素を排出しない電気自動車(EV)への乗り換えを促進するために必要な措置は何かを考える契機となるかもしれません。

国土交通省によると、2021年度の日本の二酸化炭素排出量(10億6,400万トン)のうち、運輸部門からの排出量は、1億8,500万トンで、17.4%を占めています。運輸部門には、鉄道、内航海運、航空、自動車などが含まれますが、このうち、自動車による排出は、運輸部門の86.8%(日本全体の15.1%)に達します。この自動車排出のうち、約半分は自家用車による排出です2。通常、飛行機に乗ることが二酸化炭素排出につながってしまう、と意識している人は多いかも知れませんが、日本国内で自家用車全体として排出する二酸化炭素は、年間で航空の12倍に達します3

このような点を念頭に置きつつ、グリーンピースが2021年に出した「日本の乗用車の脱炭素化:マクロ経済と環境への中長期的影響の予測」という報告書を読み直してみました。日本の乗用車パワートレイン構成が現状維持された場合、現在打ち出されている政府の自動車産業政策が実施された場合、より野心的な政策を導入した場合、という3つのシナリオを想定しており、それぞれが経済、雇用、二酸化炭素削減にどのような影響を及ぼすかを分析しているものです。

データ分析がなされてから2年が過ぎていますが、この間にEVもハイブリッド車も割合が予想よりも高くなったため、現時点で同じ分析をした場合は若干結果に差異があるかもしれません。しかし、大筋では分析結果は変化していないと言えると思います。現在打ち出されている政策が実施されれば、2040年までに年間1.42億バレルもの原油輸入を削減することができますが、より野心的にEVが促進され、乗用車の脱炭素を実現すれば、この削減幅はさらに大きくなります。EV普及とともに需要が拡大する電力について、再生エネルギーの割合をより高めていくことで、電力源を輸入に依存しなくて済むようになることも明白です。

今般のガソリン価格上昇をきっかけに、実際にEVの需要が拡大するかどうか、注視していきたいと思います。

報告書要約(2023年8月改訂版 日本語PDF)

1. 例えば、青山吉隆(2011年)ほか「ガソリン価格高騰による交通及び消費行動への影響分析」土木学会論文集67 巻5号、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejipm/67/5/67_67_I_473/_article/-char/ja/

2. 国土交通省ウェブサイト「運輸部門における二酸化炭素排出量」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

3.上記国土交通省のデータをもとに算出。