国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は海の日の7月15日を前に、海洋生態系保護について以下の声明を発表しました。

グリーンピース・ジャパン事務局長 サム・アネスリー

世界的な気候変動や海洋汚染、無秩序な漁業と不十分な海洋資源・海洋環境の保護体制により、海の生態系はこれまでにない危機に晒されています。日本でも近年、サケやサンマなどの身近な水産物の不漁などが相次いで報じられていますが、海洋生態系へのダメージは、私たちの生活にも大きな影響を及ぼしうるものです。

気象庁の統計によると、日本近海の平均海面水温(年平均)は、2023年までの100年間で1.28度上昇しました。これは同期間の世界全体の海面水温上昇(0.61度)や北太平洋全体(0.64度)を上回り(注1)、日本全国の平均気温上昇(1.35度)と同程度です。(注2)さらに、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、海水温の上昇により海水の二酸化炭素吸収力が低下する可能性を指摘しており、海洋酸性化の進行によってプランクトンやサンゴなど海洋生物への影響を懸念しています。(注3)

一方、環境中に流出したプラスチックはほとんどが分解されず海洋環境に残されます。国連環境計画(UNEP)の報告書によると、プラスチックは、海洋ごみの中で最も残留性が高く、海洋ごみ全体の少なくとも85%を占めており(注4)、エサと間違って誤飲するなどして毎年数十万もの海洋生物の死を引き起こしているとみられています。

こうした地球規模での海洋環境の変化だけでなく、1970年代以降、ほとんど途切れることなく増加している海洋生物の乱獲も大きな問題です。グリーンピースは6月、国際水域における漁業とその影響を持続的に管理する地域漁業管理機関(RFMO)に関する調査報告書『Un-tangled: How the Global Ocean Treaty can help repair high seas mismanagement』を発表しました。RFMOの評価対象は公海生物多様性のわずか5%程度と推定され(注5)、対象の48種類の公海魚資源についてもその75%が枯渇または乱獲されていると考えられます。また、公海漁業の97%は、高所得国船籍の漁船によって行われており、RFMOは種や生態系の管理と監視において十分な役割を果たしていません。

2023年に国連本部で行われた政府間会議でどの国の主権も及ばない公海の生物多様性の保全と持続可能な利用を目指す海洋保護条約の制定が合意・採択されました。この条約が発効し法的拘束力を持つためには、少なくとも60カ国が批准する必要があります。目標である2030年までに海洋の少なくとも30%を保護するために、日本を含めた各国政府が、同条約を速やかに批准し、最初の公海海洋保護区の提案を策定し始めることが必要です。(注6)

日本政府は、日本の排他的経済水域内における商業捕鯨について、IUCNレッドリストで「絶滅危惧II類 (VU) 絶滅の危険が増大している種」とされているナガスクジラを捕獲する種に追加する方針を示しました。個体数が回復しているとの報告はあるものの、実態が不明確な絶滅の危険が増大している種を商業的に捕獲することを政府が推進することは、海洋生態系保護の観点から、環境NGOとして受け入れられる判断ではありません。

海洋環境に国境はなく、そこには一層の国際協調主義が求められるのは言うまでもありません。国土を海で囲まれた日本は、古くから各地で禁漁期や区域を設けるなど、海洋環境の保護を続けてきました。危機的な海洋環境と生態系保護のため、長期的で地球の将来を見渡した行動を日本政府や企業、漁業関連団体に期待します。

以上

(注1)気象庁『海域別年平均海面水温の長期変化傾向

(注2)気象庁:日本の年平均気温

(注3)IPCC Climate Change 2021: The Physical Science Basis

(注4)UNEP From Pollution to Solution: A global assessment of marine litter and plastic pollution

(注5)グリーンピース報告書『Un-tangled: How the Global Ocean Treaty can help repair high seas mismanagement』 (2024年6月24日発表)

(注6)グリーンピース報告書『30×30: 海洋保護の未来図』(2019年4月11日発表)