国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は6月18日、同日開催されたトヨタ自動車の定時株主総会において、豊田章男氏が代表取締役会長に再任されたことについて、以下のコメントを発表しました。

グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子

本日開催されたトヨタ自動車の株主総会で、豊田章男氏が同社の代表取締役会長に再任されました。豊田氏は同社の温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ」実現や、より野心的な排出削減目標設定を進めることができる立場にあります。国際合意であるパリ協定の1.5度目標に整合する方向へトヨタの事業を変革させるためのリーダーシップや自動車産業の将来について豊富な知見を有する人材であり、同氏の手腕に期待します。

豊田氏の再任をめぐっては、米助言会社2社がガバナンスの欠如や取締役会の独立性などを理由に反対を明らかにしていました。今月初めにはトヨタを含めた自動車・二輪車メーカー5社による認証不正が発覚しており、株主の間に同社の明確で透明性のある企業統治について疑念が広がったことが考えられます。

グリーンピースは過去数年間、トヨタによる内燃機関(ICE)車開発の継続は、同社の目標である2050年のカーボン・ニュートラルと整合性がとれないことを指摘してきました(注1)。また、トヨタは、バッテリー電池車(BEV)よりも水素を使う燃料電池車(FCV)を推進しているようにも見受けられますが、これについては多くの科学者やエンジニアがネットゼロ実現の手段として有効なのか疑問視しています(注2)。

今月上旬、世界気象機関(WMO)は、新しい気象データに基づき、世界の年間平均気温が今後5年以内に産業革命前と比べ1.5度以上高くなる確率は80%になると発表しました。しかしながら、このようなニュースに対して、トヨタの掲げる二酸化炭素排出削減目標はIPCCが掲げる数値からは乖離したもので、緊迫感を抱いているようには見受けられません(注3)。

トヨタは、「気候変動政策に関する渉外活動の開示」という文書の中で「地球という美しい故郷(ホームプラネット)を次世代に引き継ぐ」と述べていますが、現状では、トヨタが販売する車両からの温室効果ガス排出量は増加の一途を辿ってきました(注4)。

トヨタは2050年のカーボン・ニュートラルを目標に掲げていますが、同社がこの目標にどのような手段で到達しようとしているのか、具体的な道筋は明示されていません。世界最大の自動車会社の代表取締役会長に再任された豊田氏のもとで、トヨタは内燃機関車の製造・販売を停止し、炭素排出削減を早急に推進していくよう変革を進めていくべきです。

以上


(注1)『自動車環境ガイド2023』ーー日本勢 EVシフトへの遅れ埋まらず、ハイブリッドへの過度な依存から脱却なるか

(注2)例えば、技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏は、FCV普及の問題点として、水素は石油や天然ガスと異なり天然に単体で大量に存在せず、必ず別のエネルギーから作り出す必要があること、天然ガスから水素をつくる過程で元のエネルギーの4〜5割は失われること、水素は貯蔵が難しいこと、高圧水素タンクは円筒形状にしなければならず車内に収容することが難しい点などを指摘している。(鶴原吉郎「EVと自動運転ークルマをどう変えるか」岩波新書、2018年)

(注3)日経クロステック2023年5月23日「トヨタ佐藤社長にもう1つの課題が浮上、緩すぎるCO2削減目標

(注4)トヨタが定期的に発表しているSustainable Data Book での二酸化炭素排出に関する情報では、同社の排出量は、2018年4.21億トン、2019年4.03億トン(後に3.71億トンに修正)、2020年3.3億トン(後に3.46億トンに修正)、2021年に3.79億トン(後に3.95億トンに修正)となっており、公開されている最新のデータでは2022年には5.75億トンに達している。