国際環境NGOグリーンピース・東アジアは11月29日、世界で増加傾向にあるSUV車が気候危機に与える影響を分析した報告書『Big Cars, Bigger Crisis(大型自動車がもたらす気候危機への影響)』を発表しました。

世界最大の自動車会社であるトヨタ、フォルクスワーゲン、ヒョンデ・起亜は、過去10年間でSUV販売を1.5倍増やしています。これらの会社が二酸化炭素を排出しないゼロエミッション車(ZEV)の販売台数を増やしても、SUVの増加によって炭素排出削減が帳消しされていることになります。

報告書全文(英語)

報告書の主なポイントは以下の通りです。

  • 過去10年間で世界の自動車販売に占めるSUV車の割合は、2013年の15.4%から2022年の40.8%と倍以上に増えている。自動車の寿命期間、SUVはセダン車より平均で12%多くの二酸化炭素を排出する(注1)。
  • ヒョンデ・起亜、トヨタ、フォルクスワーゲン、ステランティス、ゼネラル・モーターズは、2022年までの10年間いずれもSUV販売を増加させている。増加率は、トヨタが158.1%、フォルクスワーゲン270.5%、ヒョンデ・起亜は152.4%であった。
  • 2017年から2022年の間、フォルクスワーゲンとヒョンデ・起亜は内燃機関車の販売を縮小させ、トヨタは若干増加させた。しかし、この間、この3社の製品による炭素排出は増加している。
  • この報告書で調査の対象にした5会社のうち、ヒョンデ・起亜のSUV販売率が最も高かった。同社の販売車両に占めるSUVの割合は、2013年に19.7%であったのが2022年には52.7%まで増加している。2022年に同社が販売したZEVの実に82.7%がSUVであった。

(注1)車の走行距離を20万キロとして算出。

グリーンピースは、自動車会社が世界で2030年までに、欧州においては2028年までに内燃機関車の販売を停止することを求めています。

グリーンピース・東アジア 気候・エネルギー担当、エリン・チョイ

「自動車メーカーの巨人であるヒョンデやフォルクスワーゲンは環境に配慮しているというイメージを打ち出していますが、実態はその反対です。これらの大手自動車会社はSUV製造を加速させており、気候危機を悪化させています。SUVはより多くの鉄鋼を使用し、走行時にはより多くの燃料を要します。残念ながら電気自動車によって炭素排出を削減させても、SUVから出る炭素で帳消しされています。今週からドバイで開催されるCOP28の焦点のひとつは化石燃料からいかに迅速に脱出するか、です。そのなかで、世界最大の自動車会社は気候に対する責任を顧みずに石油の需要を拡大しているように見えます

自動車会社はグリーンウォッシュをただちにやめるべきです。ヒョンデ、フォルクスワーゲンを含め自動車会社は、自動車の電動化を進め、車両サイズを小さくしていくべきではないでしょうか。さらに2030年までに鉄鋼生産に伴う炭素の排出を半減させ、ゼロカーボン鉄鋼への投資を増加させていくべきです。我々は今年史上最も暑い年を経験しています。これ以上、気候危機対応を先延ばしにすべきではありません。」

<参考資料>
世界の自動車販売に占めるSUVの割合(2013−2022年)



大手3社の自動車販売台数とSUV販売台数(2013−2022年)

企業名車両20132022
トヨタSUV140万360万
全体900万970万
SUVの割合15.6%37.3%
フォルクスワーゲンSUV90万n340万
全体910万770万
SUVの割合10.1%44.3%
ヒョンデ・起亜SUV130万340万
全体680万640万
SUVの割合19.7%52.7%

(注)
販売に関するデータはすべてマークラインズ社の2023年9月時点の数値を使用した。同社の数値は各自動車会社が公表している数値と異なる場合があるが、データの一貫性の確保の観点からマークラインズのものに統一した。

SUV(Sport Utility Vehicles、スポーツ用多目的車)とは、標準的な乗用車と比較して最低地上高がより高く、車体が大きい車両を指す。厳密な定義は国によって異なるものの、オフロード機能を有している乗用車を指すことが大半である。

この報告書では、比較的小さいクロスオーバー(小型SUV)も含めてSUVと定義した。一方で、多目的車両(MPVs)およびピックアップトラックは含まれていない。各社のSUV販売台数は、マークラインズが使用している基準に準拠した。