※本自動車環境ガイドの内容は2023年11月に一部改訂されました。

国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)は10月19日、報告書『自動車環境ガイド2023』を発表しました。世界の自動車大手15社(注1)を対象に、気候変動対策をランキング形式でまとめたもので、今年で3回目となります。昨年はトヨタが2年連続の最下位で、日産、ホンダとともに日本勢がワースト3位を独占。2023年の巻き返しが注目されましたが、最高はホンダの10位、日産、トヨタ、スズキはそれぞれ11位、13位、15位でした。

<報告書の主なポイント>

公開情報を基に、各社の気候変動対策を、(1)ICE(内燃機関)車の段階的廃止、(2)サプライチェーンの脱炭素化、(3)資源の節約と効率化の3項目に分け、(1)77%、(2)18%、(3)5%と配分してスコアを算出した上で、(4)ネガティブな要素を1.0ポイントを上限として減点した。

  • 中国のSAICを除き、欧州と米国の自動車メーカーが上位を占めた。日本勢は最高がホンダの10位で、日産11位、トヨタ13位、スズキは15位だった。
  • ZEV販売実績と内燃機関車廃止の目標:販売台数に占めるEVの割合が1%にも満たなかった企業は、日産(2.98%)を除く日本メーカーだけだった(トヨタ0.24%、ホンダ0.67%、スズキ0%)。ホンダはICE販売の停止年を2040年と明示しているほか、2018から5年間のZEV販売割合の年平均成長率が比較的高かった。日産のEV販売割合は過去5年間ほとんど伸びていないが、今年9月25日に、2030年までに欧州市場での販売を100%EVにシフトすると発表。トヨタはICE車廃止年についてはいまだに発表はなく、2030年までにEV販売を350万台にするとの目標設定にとどまっている。
  • サプライチェーンの脱炭素化:BMW、フォード、GMなど6社は、2035年までに、生産ラインにおける再エネ利用100%を目標として掲げている。日本企業は、トヨタとホンダは、米国に限定して2030年までに100%再エネとするとしている。日産とスズキは、目標値を出していない。また、トヨタは、2030年までに自動車のライフサイクル全体で排出を30%削減する(2019年比)としているが、日本政府の削減目標よりも低いほか、スコープごとにどのように削減するのか具体的数値は不明である。
  • 資源の節約と効率化:EVが普及していくなかで、電池の材料となるリチウムやコバルトの新しい採掘を避けるために、リサイクルに取り組む企業も増えている。これについて、各社の目標設定に大きな前進は見られなかった。その中で日産は、2050年までに車両製造にあたっての資源使用についてその70%を新規採掘資源に頼らない材料とする、という先進的な目標を掲げている。これは高く評価されるべきである。

<自動車会社への提言>

  • 日本の自動車会社は、ICE車両廃止の先延ばしや反EVロビーをやめ、現在の世界の潮流を直視すべき。現実に、欧州や米国で電池製造を再生エネルギーで行い、ライフサイクルで見ても電気自動車の二酸化炭素排出量は大幅に減る傾向にある。国際ルールに背を向け続けることは、企業だけではなく、日本経済にもマイナスの影響を及ぼしうる。
  • 自動車メーカーは、気候危機への責任を認識し、ガソリン車をEVに変えることだけでなく、材料調達や製造過程を包括的に見直し、モビリティ・サービス提供者へ生まれ変わる必要がある。再生エネルギーの使用率目標、鉄鋼の脱炭素に関する目標など明確な数値目標と達成年を設定して説明責任を果たしていくべきである。
  • 目まぐるしく動く脱炭素の規制や法制度を踏まえ、日本国内外の消費者に信頼されるものを提供する可能性を追求すべきである。また、いくつかのG7諸国にならい、新車販売台数に占めるEVの割合を設定するべきである。
  • 今後、欧州、中国、米国といった自動車の主要市場で内燃機関車の需要減が見込まれる中、インド、タイ、インドネシアなどのアジアの国々でも環境対応と産業新興の観点から自国内でのEV生産や、テスラなどEV企業の誘致に乗り出しており、日本政府や日本のメーカーの姿勢、対応とは対照的であると言える。自動車会社はEVシフトとモビリティ・サービスへの移行といった真の意味でのクリーンな戦略を打ち出すべきである。

グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、塩畑真里子
「気候危機による自然災害が増加、深刻化するにつれ、世界中で気候危機への対応の強化を求める声が高まっており、国連のグテーレス事務総長は、各国政府や企業による炭素削減排出の努力が絶対的に足りないことを批判しています。自動車会社は、二酸化炭素の排出を一刻でも早く減らす必要性を再認識すべきです。内燃機関車の廃止とEVへの転換の必要性は根拠なく提唱されているものではなく、科学的根拠に基づくものです。製造段階よりも使用段階で多くの炭素を排出するガソリン車は、ハイブリッド車も含めて可能な限り早期に終了しなければならず、先進国が先駆けて積極的に進めなければなりません。日本メーカーでは、今年9月、日産が欧州市場に限定されるものの内燃機関車廃止を発表しました。同社の内田誠社長が『世界は内燃機関車から脱する必要がある』と述べているように、他の日本メーカーも、市場の変化と新たな国際ルール形成に取り残されないよう、思い切った決断をすべきです」


(注1) 中国メーカーのEV販売増加に伴い、2023年版は、評価対象を販売台数上位15社に拡大した。これらの15社は世界の乗用車販売の74%を占める。新たに対象となった5社は、中国メーカー3社(SAIC、長安、長城)、BMW、スズキ。なお、脱炭素の進捗の評価が目的であるため、販売台数の9割以上がEVである自動車会社(テスラやBYDなど)は対象としていない。

<関連資料>