国際環境NGOグリーンピース東アジア(以下グリーンピース)は本日、2030年の極端な海面上昇がもたらす経済的影響を予測した報告書『2030年のアジア7都市における極端な海面上昇の経済的影響予測』を発表しました。1)海面上昇と高潮や高波による沿岸部の浸水・冠水面積、2)人口密度、3)購買力平価GDPのデータを用いた分析の結果、2030年までに東京などアジア沿岸7都市で、極端な海面上昇による沿岸部の浸水・冠水により、購買力平価GDP(注)の推定7,240億米ドルの経済的影響が生じる可能性があることが分かりました。東京の影響は都の総GDPの約7%にあたる680億ドル(約7.5兆円)に上るとみられます。

また、分析に使用したデータセットと地理情報システム(GIS)を利用し、海面上昇と台風などに伴う高潮による浸水・冠水の脅威にさらされる地域の大きさ・人口を、2030年と2050年におけるシナリオ別に示した海面上昇シミュレーション・マップも公開しました。

<報告書概要>

主な分析結果は以下の通り。

  • 2030年までにアジアの沿岸部に位置する7都市で、極端な海面上昇と沿岸部の浸水・冠水により、推定7,240億米ドルの経済的影響が生じる可能性がある
  • 2030年に東京で極端な海面上昇による浸水・冠水などの危険にさらされるGDPは680億米ドル(約7.5兆円)。これはバンコク、ジャカルタに次いで3番目に高く、東京の総GDPの7%に相当する
  • 東京を含む多くの都市で土地の沈下が進み、バンコクやジャカルタは特に海面上昇と地盤沈下の両方の脅威に直面し、海面の上昇率をさらに増加させている
  • 東京の平均海抜は40メートルだが、東京湾の埋立地や沿岸部、その少し内陸側は海面上昇と高潮浸水の脅威にさらされている
  • 東京東部の低地帯に位置する江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は、極端な海面上昇による大きな影響が予測される

報告書全文

<海面上昇シミュレーションマップ>

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は地球温暖化による海面上昇を4つの排出シナリオに基づいて予測しています。このマップは、厳しい排出削減対策をとった場合と、積極的な対策を取らなかった場合の2つのシナリオをもとに、全国の浸水・冠水状況などをそれぞれ表示することができます。

主なポイント

  • 地球全体の海面の上昇は予想を上回るペースで進んでいる
  • 本マップは、極地の氷の融解や海水温の上昇から起きる海水の膨張などによる海面上昇に、台風に伴う高潮などの影響を加えた際の浸水・冠水状況の広がりが予測される範囲を示している
  • 通常の海面の上昇幅だけでは、2030年、2050年には大きな変化の見られない地域でも、高潮などと合わさると大きな影響が現れる
  • 2030年または2050年という近い将来であっても、厳しい排出規制対策を取るか否かで影響に差が出る地域がある
  • 東京をはじめ、人口や産業が集中する大都市圏名古屋や大阪の海岸付近に広がっているゼロメートル地帯や低地において大きな被害が懸念される
  • 新潟市や秋田県大潟村の稲作地帯、茨城県の利根川下流〜霞ケ浦周辺の稲作の盛んな水郷地帯など、日本の米どころも冠水リスクが高い
  • 2100年までに日本の人口の約30%が住む場所を失うリスクがあり、膨大な経済損失が予測される(世界では数億人)

関連リンク


グリーンピース・ジャパン 気候変動・エネルギー担当、高橋マヤ

「海面上昇は日本にとって、最も身近な気候危機による脅威となりえます。47都道府県のうち39都道府県が海に面しています。私たちは自然災害が多発する日本で、人工物で高潮や高波に対応することの限界を、何度も目の当たりにしてきました。台風に伴う高潮などによって​生じる海面水位のさらなる上昇は、人口の多い沿岸部を中心に経済・社会活動全体に大きな影響を及ぼすだけでなく、将来全国で多くの人たちが住まいを失うことにもなりかねません。

こうした極端な海面上昇の被害を軽減するためには、防潮堤のような応急措置だけではなく、高リスク地域など気候変動影響の大きいリスク対象の特定や脱炭素社会へのエネルギー転換など、長期的な視点に立った気候危機対策が不可欠です。気候危機は既に世界中で、連鎖的、相乗的に深刻な影響を及ぼしています。気候の不可逆的な変化を防ぐために残された時間はあとわずかです。地球温暖化、そして海面上昇を加速させないために、より​野心的な気候目標と行動計画の早急な実現を求めます」

以上


(注)購買力平価GDP:各国の物価水準の違いを考慮し、世界各国のGDPの値を購買力平価 (PPP)で補正したもの。各国のGDPを生活水準に見合った形に修正し実質価値(購買力)を比較することができ、GDP比較の国際共通指標として使われる