国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都新宿区、以下グリーンピース)は本日、アンモニア燃料についてのブリーフィングペーパー『石炭火力発電におけるアンモニア混焼ーー高価で有害なJERAと日本政府の選択』を発表しました。政府が昨年12月に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」並びに、東京電力と中部電力とが出資するJERAの計画では、今後、石炭火力発電でのアンモニア混焼拡大が示され、クリーンなエネルギー源としてアンモニアへの注目が高まっています。本ブリーフィング・ペーパーでは、政府とJERAのアンモニア混焼計画について、消費者のコストと環境への悪影響の両面に置いて、寄与しないと指摘しています。


<主なポイント>

  • アンモニアには、燃焼率の低さ、NOx排出量の多さ、放射強度の弱さなど、複数の課題がある。アンモニア混焼の割合は、最近、ようやくカロリーベースで20%に達したばかりで、100%アンモニア燃焼の商業的利用は実証されていない。
  • 政策や規制の大幅な変更がない限り、2050年までにグリーン・アンモニア(注1)が、化石燃料から製造されたアンモニアと価格で競合するのは難しい。一方、ブルー・アンモニア(注2)は、その製造に使用されるEOR(原油増進回収法)技術が化石燃料のさらなる使用を促進するため、カーボン・ニュートラルであるとは言えない。
  • JERAの石炭火力発電の燃料費は、中位の燃料価格では、CCSなし(ブラウン・アンモニア、注3)の場合は年間2.68兆ドル(約291兆円)増加、CCSを使用した(ブルー・アンモニア)場合は年間3.34兆ドル(約363兆円)増加し、正味の増加はそれぞれ1.207兆ドル(約131兆円)と1.561兆ドル(約169.7兆円)になると見込まれる。
  • 超々臨界圧(USC)の石炭火力発電の中位のLCOE(均等化発電原価)は73ドル/MWh。アンモニアを導入することで、ブラウン・アンモニアの場合は98ドル/MWh、ブルー・アンモニアは106ドル/MWhに増加すると予測される。対照的に、直近の太陽光発電の入札での落札価格は100ドル/MWhを下回る低価格で、今後更なる下落が見込まれる。また、政府は2030-2035年に洋上風力の価格を62〜74ドル/MWhにすることを目標にしている。
  • 100%石炭火力発電所と価格競争をするためには、ブラウン・アンモニア混焼の場合は99ドル/tCO2、ブルー・アンモニアの場合は122ドル/tCO2の平均炭素税が必要になると考えられます。JERAの石炭火力発電所計画のもつ問題がさらに増える可能性がある。
  • アンモニアの原料となる水素は、上流の生産から下流での使用まで、脱炭素化されたグリーンな水素のサプライチェーン確立にまったく貢献しない。
  • アンモニア混焼は、石炭火力発電所の延命のための技術に過ぎない。アンモニア混焼は実験的で、技術的にも初期の段階にあり、石炭火力を主とする企業やタービン製造会社の救済措置といえる。安価で脱炭素化した電力の未来が風力と太陽光にあることは、既に明確に実証されている。


グリーンピース・ジャパン  気候変動・エネルギー担当、ダニエル・リード
「日本政府とJERAが計画するアンモニア混焼は、コスト面から化石燃料の使用量増加に繋がり、政府が掲げる2050年までの温室効果ガス実質排出ゼロには貢献しません。

また、世界中で太陽光や風力のコストが急落する中で、これらの計画はかえって電気代の増大を招き、消費者にとっても適切な計画とは言えません。政府や電力会社は、石炭火力発電の延命ではなく、低価格化が進み、世界各地で実績のある自然エネルギー導入を進めていくべきです」


以上


ブリーフィング・ペーパー全文


(注1)グリーン・アンモニア:自然エネルギーによって製造されたアンモニア

(注2)ブルー・アンモニア:CCS/CCU(二酸化炭素回収・貯留)またはCCU(二酸化炭素回収利用)を伴うプロセスで製造された化石燃料由来のアンモニア

(注3)ブラウン・アンモニア:天然ガスを原料として製造されるアンモニア