国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都新宿区、以下グリーンピース)は、環境省に対し、気候変動対策や環境を重視した経済復興(グリーン・リカバリー)について、脱炭素社会実現に向けた具体的なロードマップの策定や、温室効果ガスの排出削減目標(NDC)の大幅引き上げ、再生可能エネルギー産業などにおける雇用機会創出など、5項目の提言書を提出しました。

今回の提言は、グリーンピースが昨年12月に実施した意識調査(下記リンク参照)に基づいています。調査では、「再生可能エネルギー100%の社会を望む」という回答が68%に上った一方、政府の「2050年ネットゼロ」宣言については、実現可能性が高いと答えた人は22%、49%が無理または難しいと回答しており、政府の具体的なロードマップの必要性が示されています。

<環境省への5つの提言>

提言1:気候危機の実情、世界規模での脱炭素社会構築が喫緊の課題であることを広く発信する

意識調査では、気候危機の現状や緊急性などについて、国内外で認識の大きなギャップが存在し、国内の認識を高める必要性が明らかになりました。日中韓3カ国の脱炭素宣言や、化石燃料関連産業への公的支援(投融資)が意味することについて、環境省からの発信がより一層求められています。

提言2:「脱炭素社会を実現する」というビジョン、道筋と明確な根拠を共有する

「2050年ネットゼロ」が実現可能と考える人がわずか2割だったことについては、実現可能なビジョンが共有されていないことや具体的な道筋が示されていないこと、既存の政策からの乖離などが主な要因であると思われます。「2050年ネットゼロ」は、温暖化による世界の平均気温上昇を抑えるための、最低限の排出経路ラインです。国民の理解と協力を得ていくためにも、2030年の中期目標など段階的な脱炭素実現のための具体的なロードマップ策定が急務です。

提言3:再生可能エネルギー100%を目指す

調査では、多くの人々が再エネ100%の未来を望んでいること、原発の再稼働を望んでいないことがわかりました。再エネ100%への転換においては、エネルギーの安定供給とコストが、懸念材料として挙げられています。国際エネルギー機関が昨年発表した『世界エネルギー展望2020』によると、太陽光発電はすでに最も安価な電力源になっており、多くの地域で、再エネと蓄電技術の組み合わせは、最も効率のよいエネルギー供給方法となっています(注1)。昨年12月に経済産業省が示した試算では、再エネ比率は2050年でも50〜60%にとどまっていますが(注2)、政府は世論を踏まえ、2050年までの再エネ100%実現を目指すべきです。その上で、どのように再エネを安価で、かつ安定的に供給できるようにするかを検討していくことが求められています。

提言4:NDCの強化、再提出に向けた2030年の温室効果ガス削減目標の大幅な引き上げを

政府の掲げた「2050年ネットゼロ」目標に対して、既存の2030年目標(2013年度比26%減)は乖離が大きく、中期目標の大幅な引き上げは、具体的な道筋として不可欠です。NDC改訂プロセスで取り組むべき分野において、最低限以下の内容を盛り込むことが必要です。

  • 2030年までに温室効果ガス排出量を2010年度の水準より少なくとも50%削減する
  • 2030年までに国内石炭火力発電を全面廃止し、石炭火力発電及び関連技術の輸出を停止する
  • 2030年までに再エネを全体の電力供給の50%以上にする
  • 原発への依存から脱却する

提言5:環境省主導で、グリーン・リカバリーの推進を

調査では「グリーン・リカバリー」について、認知度は低い一方で、そのメリットへの期待は高いことがわかりました。国際再生可能エネルギー機関が昨年発表した『再エネと雇用に関するレビュー』では、再エネ分野の雇用は既に世界で1,150万人に達し、2050年までに4,000万人を超える可能性があるとの見解が示されています(注3)。再エネの普及拡大による雇用創出は日本でも徐々に進み、気候変動対策にとどまらない様々な社会経済的利益をもたらしています。コロナ長期化で雇用喪失が止まらない中、再エネ産業などの雇用機会創出を重視した経済刺激策を優先すべきです。


グリーンピース・ジャパン、気候・エネルギー担当 高橋マヤ

「脱炭素社会への移行をめぐっては、グリーン投資や再エネ導入など供給サイドに議論が集中しがちですが、合理的なエネルギー利用、つまり需要サイドであるエネルギー消費削減を徹底的な省エネ政策で同時に進めなければ、問題は解決されません。今回の調査でも、有効だと思う脱炭素化政策として、『再エネ推進』(59%)、次いで『省エネの徹底と高効率化』(45%)が挙げられています。

日本政府は、今年11月のCOP26までに2030年までの新たな目標を定めたNDCを再提出するとしていますが、世界各国のNDC強化や排出削減水準の引き上げの動きは勢いを増しています。中国や欧州は、既に2030年までの削減目標引き上げを発表しています。バイデン米大統領は、4月の『気候サミット』までに排出削減目標を新たに策定、NDCを更新するとし、日本などの同盟国にもさらなる気候変動対策を求めていくと公言しています。韓国も5月末に主催する『P4Gサミット』で、脱炭素の具体的な計画や新たな目標を発表する可能性が高いとされています。

今月3日、パリの行政裁判所が十分な気候変動対策をとらなかったフランス政府の過失責任を認める初の判決を下しました(注4)。訴訟に先立って展開された署名運動では、230万人もの市民の賛同が集まりました。気候危機が加速する中、必要な対策を取らない国や企業の責任を問い、行動を求める大きなうねりが広がっています。日本政府も、早急なNDCの引き上げと、その達成に向けた取り組みが求められています」


<気候変動・グリーンリカバリーに関する意識調査>

調査概要
対象:国内在住の16〜69歳の男女1,000人(人口構成比に合わせてサンプリング)
方法:グローバル市場調査会社イプソス株式会社に委託してオンラインで実施
調査期間:2020年12月11日 〜13日

主な調査結果

日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言について

  • 日本の脱炭素宣言の認知率は54%に上ったが、2050年までの温室効果ガスの排出実質ゼロ(ネットゼロ)の実現可能性が高いとの回答は22%にとどまった。一方、7%が2050年では遅すぎると回答。
  • 2050年までのネットゼロ達成のため、エネルギー計画転換が必要とする回答は67%。
  • ネットゼロに向け有効だと思う政策は「再エネ推進」が59%で最多。次いで「省エネルギーの徹底と高効率化」が45%だった。

再生可能エネルギーについて

  • 再エネ100%の社会について、68%が「望む」と回答。
  • 再エネ100%の社会を望まない理由は「実現可能性が低いから」が半数以上を占め、これに「電力供給の不安定化を避けるため」「電気代などエネルギーコストの上昇を避けるため」が続いた。
  • 「再エネ100%の社会の実現可能性が低い」と思う理由では、「再エネだけでは安定供給できないから」が約半数で最多。次いで「費用が高いから」が多かった。
  • 「企業が再エネの電力を100%使用する目標を宣言し、再エネの利用に積極的に取り組むことが必要だ」との意見には約半数が同意。他方、「どちらともいえない」など中間的意見も44%と高かった。
  • 再エネ政策に関する設問(複数回答)では、「再エネの導入・普及に向け、政府の再エネ支援政策がさらに必要だ」「再エネのコスト低減など、再エネ転換へのハードルを下げるべきだ」「国の主導で 再エネ関連の技術の向上に取り組むべきだ」「再エネ設備に対する地域受容性の向上が必要だ」など、再エネ転換を後押しする取り組みについて、それぞれ半数が同意した。同意しないとの回答は、それぞれ10%にも満たなかった。

以上


(注1)国際エネルギー機関 (IEA)「世界エネルギー展望2020年

(注2)経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(2020年12月) 

(注3)国際再生可能エネルギー機関 (IRENA)「再生可能エネルギーと雇用―年次評価2020

(注4)https://www.jiji.com/jc/article?k=20210204041134a&g=afp