国際環境NGOグリーンピース・ノルディックとノルェー最大の環境NGOネイチャーアンドユースが、北極圏における新たな石油採掘権の認可をめぐり、ノルウェー政府に対して起こした裁判(注1)が11月14日(ノルウェー現地時間)に開始されます。訴訟の主な理由は、北極圏での石油採掘がパリ協定及びノルウェー憲法に違反しているとし、原告側が勝訴すれば、今後世界各地で起こりうる気候変動をめぐる裁判の先行事例となります。
グリーンピースは北極の石油採掘をとめるため、世界中でオンライン署名「石油よりいのちを選ぼう」を開始しています(注2)。

グリーンピース・ノルウェーの担当者Truls Gulowsenは、「今回の裁判は、気候変動を止めようと世界中の貪欲な政府に対峙する全ての市民にとって重要な日です。ノルウェー政府は、北極圏における新たな石油掘削を許可することで、あらゆる場所で市民生活と健康を脅かす危険性があり、市民に対する説明責任があります。新たな石油採掘調査がパリ協定とノルウェー王国憲法に違反しているのは明らかです。この問題点を法廷で取り上げる時を心待ちにしています」と話しました。

裁判は11月14日から23日にかけて行われ、原告側はノルウェー王国憲法で保障されている「将来の世代が健康的で安全な環境を享受する権利」をノルウェー政府が侵害していると主張します。この権利に関する憲法の条項に照らした合憲性が、法廷で審議されるのは今回が初となります。全世界では、およそ90カ国が「健康的な環境を享受する権利」を保障する憲法を保有しています。今回の訴訟は、各国の法制度における合意管轄条項が、これらの権利を解釈する際の方向性を示す波及効果を及ぼし、自国政府の責任を問う国民の声をより大きくしていくきっかけとなりえるでしょう。

現在、ドイツのボンで国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)が始まり(注3)、フィジーが議長国を務めますが、ノルウェーでの公判初日に出席する太平洋諸国代表は二人の若いフィジー出身者です。今回のCOP23は、米国のパリ協定からの脱退をトランプ大統領が発表してから初めて開かれる国際的な集まりです。フィジーは今回の会議が最大の注目を集め、気候変動への取り組みの必要性が再確認される機会となることを強く望んでいます。

グリーンピース・インターナショナル事務局長 ジェニファー・モーガンは 「パリ協定に背を向けたトランプ米大統領の決断は、途方もなく大きなしっぺ返しを受けることになり、世界規模で気候変動への取り組みを応援する機運が高まるきっかけとなりました。私たちには振り返っている余裕も、さらなる議論の余地もないということが、COP23の場でしっかりと伝えられなければなりません。ボンの会議で新たな指導者たちが台頭するはずで、EU諸国や中国や他の国々がそれに倣うかどうかを世界中が注目することでしょう」と訴えました。

また、裁判のためノルウェーを訪れているパシフィックアイランド代表のアリサイ・ナセワ氏は、「私たちが今回ノルウェーに来たのは、母国が気候変動の影響を最も受けているからです。現在、異常気象と海面上昇が私たちの生活に影響を与えています。石油とガスの採掘を継続すれば、世界全体の平均気温の上昇を摂氏1.5度未満に抑えることなどできません。政治家たちがどんな作り話をしても無駄です。ノルウェー政府は、パリ協定に署名しておきながら石油の採掘を継続させて世界中に化石燃料を供給しています。この二つの行為は完全に矛盾しています。パリで誓約したことに違反している国々の責任を今こそ問うべきなのです」と訴えました。

ノルウェー政府は、北極海のバレンツ海で20年ぶりとなる新規石油採掘権を認可したことに正当性を主張するでしょう。今回の決議によって、13の石油会社が北極圏での新たな石油採掘調査に乗り出すことになります。ノルウェーの国営石油会社であるスタトイルはすでに今年の夏から掘削作業を開始しています。

バレンツ海の新規石油採掘権が付与された13の石油会社
スタトイル(ノルウェー)、カプリコン、タロー、セントリカ(英国)、シェブロンとコノコフィリップス(米国)、DEA(ドイツ)、エイカーBP(ノルウェー)、出光興産(日本)、ルクオイル(ロシア)、ルンディン・ペトロリウム(スウェーデン)、OMV(オーストリア)、PGNiG(ノルウェー/ポーランド)

注1) ブリーフィング資料(英語)
オスロ地方裁判所に提出した令状(英語)
注2)オンライン署名「石油よりいのちを選ぼう」
注3) COP23 ブリーフィング資料(英語)