3月28日、アメリカのトランプ大統領は、オバマ前大統領が進めてきたクリーン・パワー・プランを含む、米国の気候変動対策を大幅に見直す大統領令に署名した。本来であれば、2016年に発効したパリ協定のもと対策を強化すべき時であるにもかかわらず、逆に後退させる方向で大統領令に署名したことは、世界の協調的な取組みに逆行し、世界第2位の排出国としての責任を放棄しようとするものであり、許されることではない。
しかし、今回の米国の政策後退によって、世界の各主体の脱炭素化の流れが揺らぐことはない。トランプ大統領は発電所の排出規制策であるクリーン・パワー・プランの無効化を意図しているとされるが、これは長期間の徹底した参加プロセスを経て策定されたものであり、一片の大統領令で無効にできるものではない。すでに、気候変動の懸念や市場競争によって、米国内の石炭火力発電所は、新設計画・既設ともに250基以上停まっており、石炭火力の発電量は、2007年から2016年の10年間で約4割も減少している。風力や太陽光分野の雇用数も石炭産業を圧倒している。

また、米国の企業や州政府には気候変動対策に積極的なところが多い。米国内の630にのぼる企業や投資家は、パリ協定を守り対策を進めることを米国政府に求めている。グーグルやマイクロソフトなど米国を代表する企業は、事業運営を100%再生可能エネルギーで賄う目標を掲げ、金融機関や投資家は石炭等の化石燃料産業のダイベストメント(投資撤退)を発表している。州政府では、カリフォルニア州など、独自のカーボン・プライシング策(排出量取引制度)を導入しているところもある。前政権の掲げていた温室効果ガス排出削減目標の達成が難しくなる懸念はあるが、実際の影響は冷静に注視する必要がある。また、近い将来、再び方針転換する可能性も小さくない。

日本においては、今回の大統領令や米国の動きを、自国の気候変動対策の強化を怠る言い訳にすることは許されない。仮に追従して歩みを緩めれば、脱炭素化経済によって得られる新たな雇用増加や経済成長の可能性の芽を摘むことになる。日本には、東日本大震災以降、50基近くの石炭火力発電所の新増設計画があり、このままでは、ただでさえ不十分な排出削減目標の達成すら危うい状況である。まずは自国の脱炭素化に向けた行動の強化を進め、米国に対しても行動強化を働きかけることが必要である。

Seven activists deploy a banner on a construction crane near the White House reading “RESIST” in Washington, on Jan. 25, 2017, President Trump’s fifth day in office.The activists are calling for those who want to resist Trump’s attacks on environmental, social, economic and educational justice to contribute to a better America.

※CAN (Climate Action Network) は、気候変動問題について、100か国以上の900を超える団体からなる国際的なNGOのネットワーク。CAN-Japanは、CANの中で、国内12団体からなる日本でのネットワーク組織で、グリーンピース・ジャパンはメンバー団体の一つです。