グリーンピース、福島県と琵琶湖で放射線調査実施

原発再稼働 琵琶湖と関西圏生態系への深刻な影響の可能性を警告、レポート「循環する放射能」日本語版も発表

国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、本日、レポート「循環する放射能:東京電力福島第一原発事故の生態系への影響 (抄訳)」(注)を発表し、若狭湾に集中する11基の原発のいずれかが万が一過酷事故を起こした場合、東電福島第一原発事故と同等もしくはそれ以上の甚大 かつ長期的な被害を、琵琶湖や関西圏の森林にもたらす可能性があると警告しました。関西電力の9つの原発を含む福井県内の全ての原子炉は現在停止していま す。琵琶湖は最も近い原発から30キロ、高浜原発から50キロに位置します。

グリーンピース放射線調査チームは、3月22日から24日、琵琶湖岸の高島、長浜、米原、そして大津市対岸にあたる草津で放 射線調査を行いました。湖底土など堆積物の放射線量を測定して現在の環境中におけるバックグラウンド放射線値を調べることで、万が一福井県にある原発で過 酷事故が起こった場合、事故由来で放出された放射線量及び核種の比較する対象となります。ヨウ化ナトリウム・シンチレーションカウンター(アトムテックス 社製)を使用して湖底の堆積物の放射線量測定と放射性物質の核種を調査すると同時に、ROV (遠隔操作探査機)で琵琶湖の底質サンプリングや撮影を行いました。結果の発表は2カ月後を予定しています。

グリーンピースは福島第一原発事故発生の2週間後から放射線調査チームを結成し、25回以上にわたって福島県および周辺での 放射線測定を行ってきました。2月21日から3月12日に実施した福島県沖での海洋及び河川の放射能汚染の実態調査では、グリーンピースのキャンペーン船 「虹の戦士号」も調査サポートのため福島県に来航しました。琵琶湖及び福島県の河川、海洋で採取されたサンプルは、独立した測定機関である「ちくりん舎」 (NPO法人市民放射能監視センター、東京)とアクロ(ACRO、フランス)が分析中です。

レポート「循環する放射能」の執筆者で、グリーンピース・ジャパンのシニア・グローバル・エネルギー担当のケンドラ・ウル リッチは、「琵琶湖は希少な古代湖の生態系を有し、60以上もの固有種が棲息しており、関西圏の1450万人に飲料水を提供しています。日本政府と関西電 力は危険な原発の再稼働を進めていますが、チェルノブイリ原発事故、東電福島原発事故によりもたらされた、今も進行中の放射線被害から何も学んでいませ ん。広大な森林が汚染されることによる生態系への影響は、数10年、数100年と継続します。長期的な停止によってリスクが高まった原子炉を再稼働させる ことは“ギャンブル”のようなものであり、地域一帯の飲料水、森林とかけがえのない生態系を犠牲にするのは許されないことです」と批判しました。

グリーンピース・ジャパンのエネルギー担当関口守は「福島県内の河川と海洋環境の調査を通じて、放射能汚染が継続中であるこ とや、この5年間に行われてきた除染の効果が非常に限定的であることが確認されました。安倍政権は、放射能汚染は安全に除去できるという認識を形成しよう としていますが、それは現実とはかけ離れています。日本は原発依存へと逆戻りするのではなく、自然エネルギーへと転換するべきです。先の大津地裁での裁判 において、高浜原発運転差し止めを求めた勇気ある滋賀県の申立人の方々の勝利は、そのための大きな一歩となったと言えるでしょう」と述べました。

グリーンピースは、再稼働手続き中の原発立地自治体の知事と安倍首相宛てに原発再稼働の停止を求める「とめよう再稼働」署名 を2013年11月から2016年2月24日まで実施しました。国内外から集まった36,715筆の署名を3月31日に福井県知事宛に提出する予定です。

『循環する放射能:東京電力福島第一原発事故の生態系への影響(抄訳)』

(発行:グリーンピース・ジャパン、2016年3月30日発行)

東京電力福島第一原発事故やチェルノブイリで放射線の影響を受けた地域での独立の科学調査の文献とグリーンピー スによる放射線調査結果をもとに、放射線の環境への影響をまとめたレポート「Radiation Reloaded: Ecological Impacts of the Fukushima Daiichi Nuclear Accident 5years Later」の概要版です(全13ページ)。

チェルノブイリでの放射線の環境への影響は、今後の東京電力福島第一原発事故の影響を予測する上で重要です。グリーンピース は、2011年3月から、これまで25回以上にわたり福島での放射線調査を行ない、2015年には飯館村の森に着目した調査を行いました。その結果、森に 溜まった放射性物質が川に流れ込み、河口を汚染していることがわかりました。本レポートでは、森、川、ダム、湖そして河口への放射性物質の流れを追いなが ら、環境への影響は複雑で広範囲にわたるということを明らかにしています。

森林に溜まっている放射能は長期的に河川に流れ込み続けるため、特に淡水生態系は放射能汚染の影響を受けやすい環境であると いえます。湖水の循環や底質に棲息する無脊椎動物などは、有機物や底質内に蓄積された汚染を水中に保持し続け、やがてはそれが食物網へと取り込まれていき ます。淡水魚の多くは、海洋の魚類とは異なり、エラから放射性セシウムを排出しないため、体内に放射性セシウムを蓄積します。チェルノブイリ原発事故とキ シュテムの核惨事についての調査によれば、森林と湖の生態系に留る放射能の減少は、最初の5年については、寿命の短い放射性核種(セシウム134やヨウ素 131など)の崩壊によるものが主であり、この初期の比較的大幅な減少の時期を過ぎると、減少のスピードは非常にゆるやかになっていきます。これは、それ 以降に存在しているものが長寿命の放射性核種であるためです。

福島県のおよそ7割、そして滋賀県の6割が森林です。福島県とその周辺8000平方キロメートルに及ぶ森や山々の汚染は、い まだに国際的な標準とされているレベルを超えており、除染は不可能と考えられます。それは下流の河川、湿地、湖、そして沿岸の生態系を数100年の間、脅 かし続けるでしょう。福井県の原発で同様な過酷事故がおこれば、滋賀県の山林も汚染され、除染は不可能に近いと予想できます。

原発から放出された放射線の影響は今後数10年、数100年と続きます。東京電力が起こした事故により、多くを奪われ、自ら を守るために日々さまざまな判断を迫られている東電福島原発事故被害者には、正確で包括的な情報を得る権利があります。このレポートは、忍耐と希望と勇気 を持って原発事故という困難に立ち向かっている人々に捧げられています。