内閣総理大臣 安倍晋三様
外務大臣 岸田文雄様
農林水産大臣 森山裕様

日本政府が、2015年10月6日付けで、国際司法裁判所(ICJ)における強制管轄受諾宣言の内容修正を国連に送付した事が明らかになりました。それによると、日本は海洋生物資源の調査、保全、管理、ないし開発に関わるいかなる紛争に関連する提訴を受け付けないとしています。日本政府が今年から計画している調査捕鯨新計画(NEWREP-A)について、国際司法裁判所を通じた他国からの新たな提訴を不可能にさせるための手段です。

私たちはこのICJ強制管轄権受託宣言文の修正を一刻も早く撤回し、新たな調査捕鯨を行なわないよう強く求めます。

<ICJ強制管轄権受諾宣言文修正の目的>

日本の調査捕鯨(JARPA II)は、2014年3月、国際司法裁判所が下した判決により、科学調査として認められず、実施が出来なくなりました。それに対して、日本政府はNEWREP-Aを計画し、この11月にも実施しようとしています。この新計画は、今年2015年1月に国際捕鯨委員会(IWC)の専門家会議で、致死的調査の必要性が否定されたものです。また、5月に行なわれたIWC科学委員会においても、所属する44人の科学者が専門家会合と同様の主旨の報告を支持しました。従って、日本はNEWREP-Aも国際法に違反している可能性があることを認識し、国際司法裁判所での提訴を事前に避けようとして、今回の受託宣言の修正を行ったと言えます。NEWREP-Aでは、以前より拡大した調査海域において、年間333頭、12年間トータルで約4000頭のミンククジラを捕獲する予定です。

つまり、今回のICJ強制管轄権受諾宣言文の修正は、日本が今年から計画している調査捕鯨新計画(NEWREP-A)について、国際司法裁判所を通じた他国からの新たな提訴を不可能にさせるための手段です。

<国際法秩序を重んじる日本政府の姿勢に一貫性を>

国際司法裁判所の管轄権は、原則として、国が裁判所に付託するすべての問題および国連憲章もしくは発効中の条約や協定が規定するすべての事項に及びます。各国は、そうした義務的管轄権を受諾する宣言をすることによって、国際法上の紛争の解決を国際司法裁判所にゆだねることができます。

国際司法裁判所が裁判をするに当たっては次の原則に立つこととされています。

・国際条約で、係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの。

・法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習。

・文明国が認めた法の一般原則。

・法則決定の補助手段としての裁判上の判決および諸国のもっとも優秀な国際法学者の学説。

このような原則のもとに裁判が行われることにこそ、国際司法裁判所の権威と信頼の根拠があるといえます。

ただし、特定の種類の紛争について、国際司法裁判所の裁判を受けることに不都合がある国は、そのような紛争は除外するとの留保をつけることができます。

今回の日本政府の宣言文の修正は、自国の主張が上記の4原則の下では勝ち目がないので、これまで服していた法秩序から逃れようとする、きわめて不公正で、なりふり構わない措置です。これでは、国際法秩序を重んじるはずの日本政府の姿勢と一貫しないと言わざるを得ません。

<南極での商業捕鯨を行なう企業はない>

日本政府は調査捕鯨の目的を、商業捕鯨の再開としています。しかし、すでにかつての捕鯨産業は、採算の取れる見込みもない南極で捕鯨を再開するつもりはありません。実際、日本で需要があるとされる鯨肉の量は限られており、政府の補助金をつぎ込まなければ成り立たない状態に陥っています。

<増える補助金、減る捕獲量>

調査捕鯨開始当初に5億円だった補助金は、年を追うごとに増え続け、今回は31億円になっています。これだけではなく、漁業を活性化するためという口実のいわゆる「もうかる漁業」という水産庁の補助金を使って、前回は補助金とは別に45億円もの税金がつぎ込まれました。この多額の金額は、鯨肉需要が減少したため、実施機関である日本鯨類研究所が赤字となり、その救済のために行なわれたものと言えます。遠く南極の公海にまで出かけて行なう操業は産業としても成り立たない事は明らかです。

<海洋の危機的状況>

国連など、様々な国際機関で現在一番大きな問題となっているのは海洋の危機的な状況です。地球の70%を占め、水循環のみならず気候の緩和、食糧資源の供給とさまざまな恩恵により私たちの生存になくてはならない存在である海洋が、酸性化や海洋の汚染、違法漁業を含む乱獲などで大きく変化しようとしています。このことに危機感を持ち、海洋をどのようにして健康な状態に戻していくかが多くの国々の関心となり、国際的な課題になっています。

四方を海で囲まれ、水産資源に多くを頼ってきた私たち日本人にとって、海が健康である事は、どこより、誰よりも必要なことのはずです。

しかし、日本はこれまで多くの水産資源の減少に責任があるにもかかわらず、問題解決への努力を怠ってきました。今回のような国際的な法秩序を無視する宣言は、私たち地球市民にとって到底認めることのできないものです。

賛同団体:

あしたへの選択Choices for Tomorrow (CFT)

認定NPO法人 アニマルライツセンター

イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク

化学物質問題市民研究会

国際環境NGO グリーンピースジャパン

認定NPO法人 原子力資料情報室

認定NPO法人 地球生物会議(ALIVE)

認定NPO法人 トラ・ゾウ保護基金

国際環境NGO FoE Japan

国連生物多様性の10年市民ネットワーク

生命の輪

日本環境法律家連盟(JELF)

PEACE いのちの搾取でなく尊厳を

ヘルプアニマルズ

Voice for Zoo Animals

認定NPO法人 野生生物保全論研究会

認定NPO法人 ラムサール・ネットワーク日本



国際環境NGOグリーンピース・ジャパン