国際環境NGOグリーンピースは本日9月14日、国際原子力機関(IAEA)天野之弥事務局長に書簡を送付しました(注)。書簡はグリーンピース、グリーンアクション、フクシマ・アクション・プロジェクト、原子力資料情報室の連名で、IAEAが8月31日に公表した東京電力福島第一原発事故の最終報告書の結論が不適切であるとし、事故原因と環境及び健康への影響について結論を出さないこと、そして被害者の声を聞くことを求めました。
報告書は14日にウィーンで始まるIAEA総会で参加国に提示されますが、NGOの書簡は、報告書の内容が天野事務局長の言うところの「事故の原因と影響、及び教訓に取り組み、権威があり、事実に基づき、バランスのとれた評価」からは程遠く、IAEAが推進する原子力産業の利を反映するもので、結果として、多くの人々の賠償を打ち切り、帰還をいわば強制するような日本政府の政策を支持するものだと批判しています。また、原子力災害などなかったかのようにすすめられる原発再稼働への反対を抑えようとするものであるとも指摘しました。

報告書についての懸念点
東京電力福島第一原発事故による放射線被ばく量の推定には大きな不確実性が存在していることを認める一方で、被ばくによる住民への健康被害は想定されないとしているが、この結論は科学的見地からの正当性を欠いている。なぜなら、実際に住民がどれくらいの被ばくを強いられたかは不明であり、推定された集団線量が高いことからも言える。

原子力安全の分野でも、現状を正確に反映できていない。また原子力規制に関しても、原子力規制委員会による九州電力川内原発の再稼動適合審査承認は深刻な地震と火山のリスクを無視し、IAEAのガイドラインから逸脱していることなどにも触れていない。また、福島原発事故の原因についても、地震による影響などに踏み込んでいない。

放射能汚染が周辺地域の自然環境に及ぼした影響の甚大さ、広大さ、そして複雑さを把握することに完全に失敗しており、証拠を提供することなしに自然生態系への影響を無視している。

IAEAへの要請
東電福島第一原発事故の原因や、健康と環境への現在生じている影響と将来起こりうる影響について結論を出さないこと。

福島第一原発事故について、また日本政府の早期帰還政策について、原発事故被害者の声に耳を傾けること。

グリーンピース・ジャパンのエネルギー担当関口守は、「IAEAの報告書は、東京電力福島第一原発事故の環境および健康への影響を正当性もなく過少評価しています。また、原子力産業や原子力規制が事故の教訓を学んでいないことも正確に反映していません。福島第一原発事故による初期被ばくはわかっていません。それはIAEAも認めている事実です。それにもかかわらず健康影響は確認されていないとするのは非科学的であり、その結論は科学より政治を優先したものであると言わざるをえません。また、IAEAの報告書は、日本政府の早期帰還政策とそれに伴う賠償及び支援の打ち切りといった政策を正当化する意図があります。原発事故を終わったことにしたい日本政府を支えるもので、日本の原発の再稼働に反対する大きな世論を抑え込むのもその目的の一つでしょう」と批判しました。


注) IAEA天野事務局長への書簡(Eメールで送付):
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/NGO_Letter_To_IAEA.pdf

参考) 「IAE福島第一原子力発電所事故報告書(概要)に対する予備的な分析」日本語版グリーンピース発行(9月14日)
http://www.greenpeace.org/japan/Global/japan/pdf/FINAL_JP_IAEA_GP_critique.pdf



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