2月15日、青森地方裁判所でグリーンピースの佐藤潤一と鈴木徹に対するクジラ肉裁判の初公判が開かれました。

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青森地裁前に出現した公平な裁判のシンボル「正義の女神」の氷像に見守られながら初公判へ向かう佐藤、鈴木と弁護団。
公判では始めに、検察官から佐藤と鈴木の起訴状が読み上げられ、それに対して無罪を主張する二人は、それぞれの想いをこめた5分間スピーチを行いました。
佐藤と鈴木の5分間スピーチ

初公判での注目は検察側証人の尋問です。クジラ肉入りダンボール箱の配送業者の責任者と、調査捕鯨を実施する共同船舶の幹部が証人台に立ちました。

配送業者の責任者は、クジラ肉入りダンボール箱について20回以上も警察から問い合わせを受けながら、クジラ肉横領のことに関しては一度も聞かれなかったし、共同船舶との契約では日常品を運ぶという前提であり、箱の中身がクジラ肉だったことは箱の送り主である船員からは教えてもらっていなかったと証言しました。もし中身を知らないまま違法なものの運び屋をさせられるようなことがあれば、それは運送業の冒涜になるとし、それを防ぐために運搬物の中身は確認していると説明しました。しかし一方で、宅配の荷札には中身ではなく「荷姿」を書いてもらうのだという証言は、事件直後に同じ配送業者が新聞記事(注1)で語ったこととも、捕鯨船団から同じ配送業者で発送された他の段ボール箱の荷札に「黒ビニール」や「塩物」と書かれたものがあったこととも、また一般の認識とも大きく食い違います。「荷姿」を書かせるだけで中身の確認ができるのでしょうか?

共同船舶の幹部は、当初「土産」の存在を否定する発言をマスコミにしていたことについて、「われわれは『土産』という認識ではなく、『現物支給』の鯨肉だったからだ」と無理な言い訳を繰り返しました。さらに、日新丸乗組員が船上でクジラ肉の半端部位を消費するために個人で塩漬けにするケースがあるとし、乗組員たちがどのくらいの量を私室に持ち込み消費するかは管理していないと、不正を裏づけるような証言をしました。

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「この裁判は調査捕鯨の不正にとどまらず、日本の民主主義が問われている」と語る元アパルトヘイトの活動のリーダー、クミ・ナイドゥ、昨年11月よりグリーンピース・インターナショナルの事務局長。12日東京での記者会見にて。
初公判を傍聴するために来日したグリーンピース・インターナショナルの事務局クミ・ナイドゥは、次のように語っています。「この裁判は調査捕鯨の不正を明らかにできるかどうかだけではなく、日本の民主主義が問われている。マーティン・ルーサー・キングやローザ・パークス、マハトマ・ガンジー、ネルソン・マンデラらは、かつて民主社会の自由のために既存の法律を犯して逮捕されたり迫害を受けたりしたが、いまは彼らが尊敬されるべき人々であることを歴史が証明している。私のグリーンピースの仲間である佐藤と鈴木も、自身をリスクにさらし、国策事業の不正を明らかにしようとして逮捕・起訴された。青森地裁に迅速で公平な裁判を望むとともに、二人の正義が証明されることは歴史の必然とはいえ、私としては”歴史”ではなく青森地裁で証明されるよう期待する」

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「人権の最高機関である国連人権理事会の作業部会がクジラ肉裁判の二人をサポートしてくれている」と語るサラ・バートン。12日東京での記者会見にて。
同じくグリーンピース・インターナショナルから応援に駆けつけた弁護士でもあるサラ・バートン次席プログラム・ディレクターは、「人権の最高機関である国連人権理事会の作業部会が、佐藤と鈴木の逮捕・起訴は基本的人権に反するとの見解を発表しています」と紹介したうえで、「この人権問題は国連や海外が注目するだけでなく、人権違反の犠牲となっている二人は日本人であり、また彼らに貴重な情報をもたらしてくれた勇気ある情報提供者も日本の方です」と強調し、日本政府が調査捕鯨の不正を隠ぺいした前政権の腐敗を厳しく追及してほしいと結びました。

Q: クジラ肉裁判とは?
A: クジラ肉裁判とは、2008年グリーンピース・ジャパンの職員、佐藤潤一と鈴木徹が調査捕鯨におけるクジラ肉の横領疑惑を調査し、公的機関に告発するために横流しの証拠としてダンボール箱入りのクジラ肉を確保したことで、同年7月11日に窃盗・建造物侵入罪で青森地裁に起訴された事件の裁判です。

Q: なんで初公判までこんなに時間がかかったの?
A: 起訴から20カ月、佐藤と鈴木の弁護のために必要とされる調査捕鯨母船・日新丸の乗組員らの供述調書や、船上でのクジラ肉の取り扱いに関する証拠開示をめぐって手続きに時間がかかりました。証拠開示は、最高裁まで争われましたが結局、不開示となりました。今年1月の公判前整理手続きの協議で、証拠整理と証人採用の確定を経て2月15日に初公判を迎えました。

(注1)東京新聞、2008年5月31日掲載記事より抜粋
〈伝票の記載について、水産庁関係者から「運送会社から荷姿(荷物の外観)を書いて欲しい、と言われていた」と反論が本誌に寄せられたが、運送会社に確認したところ、「そんな指導はしていない」との回答。何らかの”後ろめたさ”を物語っていそうだ。〉

(c)Jeremy Sutton-Hibbert / Greenpeace
プレスリリース 2010年2月15日
佐藤と鈴木の5分間スピーチ@初公判
「the ウォッチ!」 多くの方がクジラ肉裁判に注目してくれています。この裁判、どこがみどころ? 注目ポイントも紹介しています。