クジラ肉裁判前に国連人権理事会作業部会が日本政府に警告
佐藤と鈴木のケースで日本初の警告

国連人権理事会の「恣意的(しいてき)拘禁に関するワーキンググループ(作業部会)」が、日本政府によるグリーンピース・ジャパンの佐藤潤一と鈴木徹の逮捕・勾留が世界人権宣言の18条、19条、20条などに違反するという「意見」を2009年9月に採択し、日本政府に伝えていたことがわかりました。
日本政府が、同ワーキンググループから国内の刑事事件について国際条約違反の警告を受けるのは、1991年にこの作業部会が設置されてはじめてとなる極めて異例のことです(注)。

「市民には不正を追及する権利がある」と明言

昨年12月に日本政府に届けられたワーキンググループからの「意見」には、以下のようなことが述べられ、佐藤と鈴木の「市民が公職員の不正を調査し、疑惑を裏づける証拠を明らかにする権利」が侵害されていると警告しています。

「被告人らは、自身の行動がより大きな公共の利益を実現するとの信念にもとづき、税金で運営される捕鯨事業内で行われている横領という犯罪行為を白日の下に晒すべく行動したものである。同人らは、自身の訴える捕鯨事業内で発生している不正の証拠の入手方法につき、積極的に警察・検察に協力してきたが、その協力的な姿勢は一切評価されていない。政府回答は、横領行為の存在を否定することもなく、また被告人らの上記の協力的な態度に言及することもない。」

「本ワーキンググループは、思想良心の自由及び表現の自由、集会の自由、汚職の疑惑を調査し、政府政策に対して異を唱える自由は、いかなる場合においても保障されなければならないと考える。市民は公務員の不正が疑われる場合にはこれを調査し、疑惑を裏付ける証拠を明らかにする権利を有している。」

「佐藤潤一氏及び鈴木徹氏両名の身体拘束は恣意的で、世界人権宣言第18ないし20条、並びに日本も批准国である市民的及び政治的権利に関する国際規約第18条及び19条に違反するものであり、(中略)本ワーキンググループは日本政府に対して、市民的及び政治的権利に関する国際規約第2条、10条、14条、19条に定める国際基準に適う公平な手続のもとで、被告人らの防御権がすべて、かつ完全に尊重されるよう保障することを要望する。」

2010年3月に国連人権理事会の報告書で発表予定

今回の「意見」は2009年3月16日に国連との協議資格を有する国際的な人権NGOであるアムネスティ・インターナショナル本部や他の人権擁護団体などが、佐藤と鈴木の逮捕に懸念を表明して、このワーキンググループに通報したことがきっかけです。

ワーキンググループは日本政府からの弁明も受け、両者の意見を検討した結果、「世界人権宣言に違反している」との意見を日本政府に伝えました。この「意見」には法的拘束力はありませんが、国連人権理事会のもとに設けられた権威ある人権保障制度にもとづくものであり、2010年3月1日から26日まで開催される国連人権理事会に提出される報告書に掲載され全世界に公表されることとなります。

日本について個別のケースが人権理事会に報告されるのも、これがはじめてです。

2月15日にはじまるクジラ肉裁判への影響

この「意見」で述べられている内容は、2月15日に初公判を迎えるクジラ肉裁判で佐藤と鈴木の弁護団が主張しようとする意見とぴったり一致するものです。グリーンピースは、今回のワーキンググループの意見と同様、青森地方裁判所が「不正を追及する市民の権利」を認めるよう、国内外からこの裁判を見守っていきます。

リンク:
国連人権理事会・恣意的拘禁に関するワーキンググループの意見書(日本語版)(PDFファイル:171KB)
国連人権理事会・恣意的拘禁に関するワーキンググループの意見書(英語版)(PDFファイル:540KB)
あなたの意見を募集中 「the ウォッチ!」
プレスリリース 2010年2月8日

注)1992年以降、国連人権理事会への報告書に掲載されている事例から判断 http://www2.ohchr.org/english/issues/detention/annual.htm

<参考>

Q:国連人権理事会の「恣意的(しいてき)拘禁に関するワーキンググループ(作業部会)」とは?

A:国連人権理事会は安全保障理事会、経済社会理事会と並ぶ三大理事会の一つとして2006年に発足した。47カ国の理事国からなり、日本も理事国。「恣意的(しいてき)拘禁に関するワーキンググループ」は、政治的迫害などのために逮捕・拘禁された人に関する通報を受けて調査し、その結果を当該政府に報告、違反がある場合には改善を促している。

Q:世界人権宣言の18条、19条、20条とは?

A:
第十八条
すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によって宗教又は信念を表明する自由を含む。

第十九条
すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。

第二十条
1 すべての人は、平和的集会及び結社の自由に対する権利を有する。 2 何人も、結社に属することを強制されない。

世界人権宣言 外務省Webページ参照