本日、母船の日新丸をはじめとする調査捕鯨船団が南極海から山口県下関港へ帰港した。調査捕鯨関係者による鯨肉横領の疑惑は、十分な調査がされないまま一年が経ったことになる。この帰港に際して、グリーンピース・ジャパンは水産庁、(財)日本鯨類研究所(以下、鯨研)、共同船舶株式会社(以下、共同船舶)へ鯨肉の荷下ろしについての調査と第三者立会いを要請していた(注1)が、4月10日(金)、要請には応えられないとの回答があった。

昨年4月15日、日新丸が南極海から東京港へ帰港した際、グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一らは、日新丸船員が隠すようにして自宅に送ったダンボール箱入りの23.5キロにもおよぶ高級鯨肉部位を業務上横領の証拠として確保した。そして、鯨肉の大量かつ恒常的な船員たちの着服を指摘する内部告発情報とともに、東京地方検察庁へ告発した(注2)。

ズーム
雨の中、下関港に入港する日新丸。船員だけでなく鯨研職員や、水産庁職員で日新丸に同船し調査を監督する立場にある漁業監督官にも「お土産鯨肉」は送られていたことが新たに発覚するなど、組織ぐるみの疑惑は深まる。
当初、「個人が持ち帰る鯨肉は土産も含めて存在しない」としていた水産庁や共同船舶も、佐藤らの告発後「船員が持ち帰ったものはすべて土産鯨肉で問題ない」と口裏を合わせ、事実上の国策として推進される調査捕鯨事業における不正行為を隠そうとしたと思われる。東京地検は佐藤らの告発を十分な調査もないまま不起訴とする一方で、その同日、佐藤ら2名を窃盗容疑で逮捕している。

しかし現在まで、東京地検だけでなく水産庁、鯨研、共同船舶のいずれからも、鯨肉持ち出しについて「問題なし」と証明できる売買取引書類などの客観的な証拠は一つも公表されていない。さらに、グリーンピースが水産庁に対して鯨肉販売状況の情報公開を求めたところ、開示された文書は詳細をすべて隠した黒塗りであったり、土産鯨肉は船員だけでなく鯨研職員や水産庁職員で日新丸に同船し監督する立場である漁業監督官にも送られていたりすることが新たに発覚するなど、組織ぐるみの疑惑は深まる(注3)。

本日の日新丸の帰港に際し、グリーンピース・ジャパンは水産庁、鯨研、共同船舶に対し、昨年までと今年の船員への鯨肉配布方法の違いなどについて、寄港地での説明や立会い調査を求め、文書で要請していたが、いずれも拒否されている。

グリーンピース・ジャパン事務局長の星川淳は、「調査捕鯨に隠すところがないのであれば、第三者に対して適切な説明ができるはず。ましてや多額の税金が投入されている国営事業には説明責任があり、実態を隠すことなく納税者に証明すべきだ」と語り、第三者による厳格な再調査を受けるよう強く訴えた。

日本政府は毎年行なわれる南極海調査捕鯨に約5億円の補助金を投入し、今年はシーシェパード(注4)対策としてさらに約7億円の補正予算を請求し承認されているため、今期の調査捕鯨には約12億円の税金が使われたことになる。このように税金が投入されている事業において、共同船舶による「土産鯨肉」の言い分を信じたとすれば、船員の「土産」だけでも年間1千万円以上、過去20年間で2億円以上が配られたことになる(注5)。

また事務局長星川は、「需要もなく、産業の将来性もない商業捕鯨再開のために12億円の税金を投じるのは、まったく国益にかなわない。いままさに必要とされている日本近海の海洋環境保護と、持続可能な漁業のための漁師援助にその税金を費やしてほしい」と、南極海調査捕鯨の中止と税金の有益な使い方を求めた。





注1 水産庁への要請手紙 (PDF)
注2 「告発レポート」(2008年5月15日発行)
注3 「塗りつぶされた鯨肉横領スキャンダル」 (2009年3月19日発行、PDF)
注4:米国環境保護団体シーシェパードの代表者ポール・ワトソンはグリーンピースの初期のメンバーであったが、1977年にグリーンピース理事会の決定で追放された。グリーンピースは国連のオブザーバー資格を有する環境保護の国際団体であり、非暴力の精神に則り平和的な環境保護の活動を続けている、シーシェパードとは無関係の組織である。また今シーズンの調査捕鯨に対して、グリーンピースは日本国内で調査捕鯨の見直しと鯨肉横領の究明を求める活動に焦点をあて、今期は南極海へキャンペーン船を出していない。
注5:船員220名に毎年2回、8キロのウネス肉(2500円/kg)と2キロの赤肉(2000円/kg)が土産として配布されたとして計算




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グリーンピース・ジャパン 広報 村上京子
グリーンピース・インターナショナル 広報 Greg McNevin