本日3月23日、青森地方裁判所で行なわれた第2回公判前整理手続きの協議で、国際環境NGOグリーンピース職員2名が調査捕鯨の不正告発のために鯨肉の箱を持ち出した行為について刑事責任が問われるべきかどうか(注1)をめぐり、弁護団が鯨肉横領行為の有無を訴訟審理の対象とすべきと訴えた。これに対して、裁判所はさらに議論が必要とし、判断を保留した。さらに、裁判所はこの点について、検察官側の意見を求めた。グリーンピースは、鯨肉横領の究明は佐藤潤一と鈴木徹の行った行為の正当性や行為の倫理性、法益の均衡について判断するために不可欠として、今後も調査捕鯨に関わる情報開示とともに公正な裁判を求めていく。

本日の裁判所の対応に、海渡雄一主任弁護士は「さらに議論を重ねるという裁判所の姿勢に希望をつなげたい」と述べ、引きつづき、憲法と国際人権法の観点から公権力を監視する「国民の知る権利」を擁護していく決意を示した。

「鯨肉横領の有無が審理に含まれれば、問題の本質である政府による税金の乱用と調査捕鯨船団の乗組員による鯨肉横領を究明できる可能性が高まる」とグリーンピース・ジャパン事務局長・星川淳は語り、「すべての関係事実が正義の秤にかけられてはじめて、税金を投じた国営捕鯨について国民と納税者の知る権利が守られる」と、次回以降への期待を寄せた。

去る2月13日に行われた第1回公判前整理手続きでは、国際人権法の「表現の自由」保障が審理の対象と認められたため、検察官から2月17日付けで意見書が提出されていた。それに対し本日、弁護人は意見書を提出し、検察側に強く反論した。国際人権(自由権)規約と日本国憲法とでは人権を認める範囲とその理由に重大な相違点があるとして、検察官の意見の誤りを指摘した(注2)。

また本日、佐藤・鈴木の行為を国際人権(自由権)規約から見た法律専門家の意見書2通と、日本の調査捕鯨の違法性についての意見書1通(注3)を検察官に出し、弁護団は裁判所へ取り調べを請求した。欧州評議会人権理事会の専門家デレク・フォルホーフ博士は、青森地裁へ提出した意見書の中で、「佐藤と鈴木の訴追ならびに考えうる有罪判決は、表現の自由ならびに情報公開に対する当局による干渉に相当するとともに、欧州人権裁判所の判例法の観点から『民主的社会において必要な』ものと見なすべきではない」と、当局の行きすぎた捜査・起訴を厳しく批判している。



(注1)昨年5月、グリーンピース・ジャパン職員の佐藤潤一と鈴木徹は、毎年国庫補助金が投入される南極海調査捕鯨において、捕鯨船乗組員による鯨肉の横流しが行われてきた事実を突きとめ、その不正告発のため鯨肉入りダンボールを確保し、横領の証拠品として東京地検に提出した。二人は翌6月に調査手段をめぐって逮捕・起訴され、現在、公判前整理手続きが進行中。一方、調査捕鯨関係者らによる鯨肉横領の疑惑については、十分な調査もされないまま不起訴となっている。
(注2)
検察官提出意見書(平成21年2月27日)に対する意見書(3月23日)主任弁護士 海渡雄一(PDF,572k)
予定主張記載書面(平成21年1月19日)に対する補充
(3月9日)主任弁護士 海渡雄一(PDF,1.2M)

(注3)専門家の意見書
デレク・フォルホーフ氏(博士、教授:ヘント大学(ベルギー)、コペンハーゲン大学(デンマーク))「佐藤潤一と鈴木徹の事件における表現の自由に関する側面について」 (PDF,2M)
ウィリアム・シャバス氏(ゴーゴウェイ国立大学人権法教授、アイルランド人権センター・ディレクター)
「国際人権(自由権)規約の第19条における日本の義務に関した法的見解、および国際人権法のもとにおける「表現の自由」保護の一般分析」 (PDF,740k)
ドナルドR.ロスウェル氏(オーストラリア国立大学法学部国際法教授) 「国際法から見た日本の調査捕鯨の合法性」 (PDF,548k)


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Greenpeace International Communications, Greg McNevin