ヒロシマとナガサキの惨禍から63年目の8月を迎えました。

グリーンピース・ジャパンは、全世界のグリーンピースとともに、核の脅威から自由な地球をめざす決意を新たにしています。この脅威には、核兵器と、原子力発電やプルトニウム利用にともなう危険の両方が含まれます。なぜなら、核爆発と核施設の苛酷事故とのあいだに本質的な違いはなく、放射能が人体や生態系に与える悪影響にも区別はないからです。

今年、日本政府は唯一の実戦被爆国として許されない選択をしました。鳴り物入りの洞爺湖G8サミットで、原子力が気候変動対策の切り札だという主張を、米国などとともにこれまでになく大々的に表明したのです。地球温暖化を否定し続けて行き詰まったブッシュ政権は、気候変動対策を理由に原発拡大路線を復活させようとしていますが、これはトウモロコシ原料のバイオエタノール大増産を国策にして世界的な食料危機の引き金を引いたのと同じ、政権末期の迷走です。しかし、米国における原発の新規建設に日本国民の税金から保険金を貢ごうとする日本政府の後押し[1]がなければ、そんな愚策も成り立たちません。

むしろ、世界を出口なき原子力の迷宮に引きずり込もうとしている本当の元凶は、六ヶ所再処理施設や高速増殖炉もんじゅに代表される隘路で身動きが取れず(エネルギー研究開発予算の6割以上がプルトニウム利用に回る)、それがゆえに真の温暖化対策も進められない日本です。幸いサミットでは合意に至らずにすみましたが、「原子力ルネッサンス」のかけ声は、ヒロシマとナガサキの惨禍に直結した「大東亜共栄圏」と同じくらい有害なプロパガンダとして、これから日本と日本人の責任が問われるでしょう。唯一の実戦被爆国が、なぜここまでなし崩しの国策に引きずられてしまうのか――「過ちは繰り返しませぬから」というヒロシマの誓いが泣いています。

軍事核利用の面でも、米海軍の原子力空母ジョージ・ワシントンの横須賀母港化が住民の強い反対を押し切って進められる一方で、対潜核ミサイルを搭載できる米海軍の攻撃型原子力潜水艦ヒューストンが、佐世保、グァム、ハワイを含む太平洋の寄港地と航行ルート沿いに放射能漏れを起こしていたことがわかりました。東アジアでは中国と北朝鮮、南アジアではインドとパキスタン、そしてイランの核軍備が懸念材料です。核不拡散条約(NPT)の合意どおり核保有国が核廃絶への確実な手続きに入ること、イスラエル、インド、パキスタンのような”みなし”(事実上の)保有国の存在を追認しないことが重要ですし、NPT体制の根幹を揺るがす米印原子力協定[2]の成立を防ぐことが喫緊の課題です。

このように、核の脅威と惨禍からの自由を求める人類の歩みは一進一退を繰り返していますが、最大の鍵は核のない世界をあきらめないことです。とりわけ、身近に被爆者の苦しみと願いを知る私たち日本人こそ、核兵器と原子力発電とにまたがる核廃絶を先導しなければなりません。グリーンピース・ジャパンは心ある皆さまとともに、その道を歩き続けます。

グリーンピース・ジャパン事務局長
星川 淳
[1] 日本貿易保険は対外取引の発展という政策的見地で創設された公的な保険で、資本金は100%政府出資、つまりは税金。途上国向け貿易を対象としていたが、米国への原発輸出を見込み、先進国向けも利用できるように「改悪」されようとしている。
[2] http://kakujoho.net/us/us_ind.html