原子力産業を抱える国々は、このところ地球温暖化抑止を名目に、原子力輸出を推進したり、支援したり、そのための制度を整えたりしている。これらの国々はまた、国民の反対や経済性などの理由から、国内での原発建設が頭打ちになっている国々でもある。日本をはじめG8のいくつかの国は、こうした状況のもとで原子力を推進している。これは国内での増設が難しいので、海外での展開を狙っているとも言い換えられる。

G8首脳は8日、「環境・気候変動」についての成果文書のなかで、「気候変動とエネルギー安全保障上の懸念に取り組むための手段として、原子力計画への関心を示す国が増大していることを目のあたりにしている。これらの国々は、原子力を、化石燃料への依存を減らし、したがって温室効果ガスの排出量を削減させる不可欠の手段とみなしている」とし、「保障措置(核不拡散)、原子力安全、核セキュリティ(3S)が、原子力エネルギーの平和利用のための根本原則」だとして、日本の提案により「3Sに立脚した原子力エネルギー基盤整備に関する国際イニシアティブが開始される」と述べている。

しかし、原子力の発電への利用(「平和利用」あるいは「民生利用」)が開始されてから50年余りが経過したにもかかわらず、原子力を導入した各国政府とその原子力産業は、いまだ「三つのS」を満たしていない。

保障措置(核拡散)は世界の安全保障を揺るがす脅威であり続けているし、原子力の「安全性」については、チェルノブイリ原発事故をはじめ、ちょうど一年前、大地震による衝撃で運転を停止したままの柏崎・刈羽原発など、その「危険性」に対する懸念は膨らむいっぽうである。また核セキュリティは、それが核テロや盗難などのリスクを意味するのであれば、世界の不安は高まるばかりだ。

日本が提案し、8日、先の成果文書とともに発表された「3Sに立脚した原子力エネルギー基盤整備に関する国際イニシアティブ」は、「この分野における国際協力は有益たりうるものであること、G8メンバーはこのような国際協力の促進に積極的な役割を果たすべきこと」を強調し、具体的な今後とるべき措置を掲げている。原子力を拡大するにあたり、3Sの確立や基盤整備の必要性が強調されるのは、世界は、とりわけ途上国では、そうした条件が整っていないことの表れである。

危険な気候変動を免れるには、今後10年ほどのうちに二酸化炭素の排出量を減少へと転じさせる必要があるとされる。残された時間が少ないなか、原発は設置計画から運転までに通常10年以上かかる。たとえば、2005年にフィンランドで着工され、現在建設中のオルキルオト原発3号機の場合、すでにその設置コストは想定されていた額より50%も膨れ上がり、2年半もの遅れが生じている。この6月に国際エネルギー機関(IEA)が策定したエネルギーシナリオによると、たとえ2050年までに世界全体で毎年、年間32ギガワット(100万キロワット級原発32基、あるいは毎年2.6基)を建設したとしても、それによって見込まれるエネルギー部門における削減効果は6%、全体では4%だという。

このように、原子力は地球温暖化対策として役に立たない。そればかりでなく、実行力のある温暖化対策――エネルギー効率の向上と自然エネルギーの普及――の進展を損なう。さらに、原子力に代表される大規模集中型の電力供給システムは、小規模分散型のシステムの導入を阻む。加えて原子力の拡大は、増え続ける放射性廃棄物の管理問題をより困難にし、大事故の発生リスクを高めるだろう。

世界は原子力に依存しない温暖化対策とエネルギー安全保障を構築しなければならず、G8はその主導的役割を果たすよう、私たちは求める。

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川崎哲(ピースボート共同代表)
鈴木真奈美(グリーンピース・ジャパン気候エネルギー担当)