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南極海で捕鯨母船日新丸に遭遇したグリーンピースのキャンペーン船エスペランサ号(手前) 〜 Greenpeace/Jeremy Sutton-Hibbert

世界中の海をめぐり、地球温暖化、過剰漁業、汚染などの海洋環境破壊の現状を世界に訴え、世界の100万人の人にバーチャルで乗船してもらおうと「100万人の大航海~豊かな海を引き継ぐために」を続けている国際環境保護団体グリーンピース ( 注1 ) は、ケープタウンから南極海に向けて航海中の12月21日、南極海のクジラ保護区内の海上でミンククジラとナガスクジラを捕獲中の日本の捕鯨母船日新丸(8030トン)と遭遇し、同船によるクジラ保護区の侵害と南極海の生態系破壊に抗議した。

これに先立ち、グリーンピースとEIA(Environmental Investigation Agency) ( 注2 ) は捕鯨産業に関わる世界の企業ネットワークを調査し、日本を代表する水産会社、日本水産株式会社(以後、ニッスイと記す)などが捕鯨船を所有する共同船舶(株)の筆頭株主として関わっていることを確認。海外のニッスイ・グループ企業としては、米国の冷凍食品メーカーの筆頭であるゴートンズ(本社=米マサチューセッツ州)、オーストラリア、ヨーロッパではシーロード(本社=ニュージーランド)など。グリーンピースの各国支部は、各社に対し、地球環境を守る企業の社会的責任(CSR)として捕鯨への支援を止め脆弱な南極の生態系の保全をはかるよう要請を開始した。

グリーンピース・ジャパンはニッスイに対し、10月28日に海洋保護に関する社会的責任について質問状を送付。一度の面談の後、同社は11月25日付けに書面で回答書を送付。その中で、共同船舶への出資は「『共同船舶が調査の受託によって事業を継続し、従業員の雇用・職域が保たれる』ことから出資している。設立以来利益配当はない」と回答。さらに日本政府が調査捕鯨を行う理由の一つとしている「将来的な商業捕鯨の再開」については、「企業リスクが高い」として ( 注3 ) 捕鯨事業再開には後ろ向きな姿勢を見せ、日本政府との意見に食い違いを見せている。
グリーンピース・ジャパンの「共同船舶が今後捕鯨で培った技術を利用して、例えばホエールウォッチング事業などに転向すること」の提案に対しては、提案は共同船舶社長に直接伝えたと回答している。グリーンピースは、この問題の解決のためにニッスイに対し、さらなる面談を求めている。

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クジラ保護区を守ってください、とボートから捕鯨母船に呼びかける。 〜 Greenpeace/Jeremy Sutton-Hibbert

本日、南極海上で、日新丸に遭遇したのはグリーンピースのキャンペーン船、エスペランサ号(オランダ船籍 2076トン)とアークティック・サンライズ号(オランダ船籍 949トン)の二隻。エスペランサ号からは「船団の皆さんが捕鯨をされている場所は『南極海クジラ保護区』とされている海域です。本来、先の世紀に商業捕鯨により乱獲されたクジラの生息数回復のために設けられた区域です」と、グリーンピース・ジャパンの海洋生態系担当広野祐子が無線で日新丸に連絡し、捕鯨を中止し、クジラ保護区である海域から退去するよう訴えた。

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クジラ保護区を守ってください、とボートから捕鯨母船に呼びかける。 〜 Greenpeace/Jeremy Sutton-Hibbert

南極海は、激減した鯨類の個体数回復のために1994年にIWC(国際捕鯨委員会)によりクジラ保護区に指定されているが、日本の水産庁は「調査捕鯨」として世界で唯一南極海での捕鯨を続けている。日新丸は水産庁から依頼を受けた共同船舶(株)の所有船。11月8日に下関を出航した。同庁は、今年、南極クジラ保護区で、従来のミンククジラの捕獲数の2倍にあたる850頭±10%(765~935頭)にすると発表。絶滅危惧種に指定されているナガスクジラも10頭捕獲するとしている。
「地球温暖化や汚染などの影響で、クジラやペンギンが餌とするするオキアミは激減している ( 注4 ) 。このようにすでに生態系が崩れ始めている南極海で絶滅危惧種を含む1,000頭近いクジラを短期間に捕獲することは環境保護への国際的な流れに逆行している。絶滅危惧種に指定されている野生生物なのに、その個体を捕殺してまで調査することがあるだろうか」と、グリーンピース・ジャパンの海洋生態系問題担当の高名瑞は語り、「南極海で捕獲される絶滅危惧種を含むクジラは食肉市場に流されるが、需要の少なさから結局在庫として積み上げられている。ニッスイも南極の生態系保護に積極的に貢献し、企業の社会的責任を果たすべき」と、高名瑞は続けた。

(注1)
プレスリリース 「世界に海洋保護区のネットワークを!」(2005/11/18)

(注2)
EIA: 環境破壊の国際的な調査団体 本部ロンドン、詳細は http://www.eia-international.org/

(注3)
本書面でニッスイは「当社グループには捕鯨に関する技術設備とも存在していないこと、等の理由により、当社あるいはグループ企業による商業捕鯨を立ち上げることは企業リスクが非常に高いという認識にあります。」と回答。

(注4)
2004年11月4日付けの英国科学誌「ネイチャー」に掲載(Nature 432, 100-103 (04 November 2004)
英国南極調査所やカナダ、南アフリカなどの共同研究チームはナンキョクオキアミが1970年代から80%近く減少しているという解析結果を発表。
研究チームはナンキョクオキアミを食べるクジラやペンギンなどに影響が出る可能性があるとしている。

南極の大自然~脅かされる絶滅危惧種~ (スライドショー)

グリーンピース・ジャパン海洋生態系問題サイト

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