【2003年8月6日、ブラジル、アマゾン流域のデニ族の土地、ボイアドール村】  ブラジルの先住民デニ族は、8月6日、過去18年にわたってブラジル政府に請願し ていた念願の土地境界画定が達成されたことを祝して、伝統的な歌と踊りでこの 記念すべき日を盛大に祝った。「パタラフ」とよばれるデニ族の首長たちによっ て組織されたこの祝宴は、ブラジルアマゾンの南東、ジュルア川の支流、シェル ア川に面したボイアドール村で行われた。祝宴にはグリーンピース、CIMI(先住 民宣教協議会)やOPAN(先住アマゾン支援計画)(注1)の代表など、デニ族の先 祖代々の土地を守る闘いを支持してきた団体に加え、ブラジル政府の職員、世界 各国のジャーナリスト、特別ゲストらが出席した。

デニ族の土地境界区分によって、アマゾン熱帯雨林に居住する先住民族の8ヶ所 の居住区を結ぶ、360万ヘクタールの細長い「先住民族・環境保護回廊」が出現す ることになる。この回廊地帯は、いまだ学術研究でさえ足を踏み入れていないこ の森林の資源の独占的使用権を、2,400人あまりの先住民に保障するものになる。 アマゾンの先住民のなかにはハイマリマン族のようにわずか200人足らずで構成 される、外部の世界と接触をもったことのない部族もいる。

先住民族による土地の境界画定は、数千社にのぼる伐採業者の侵入に脅かされて いるアマゾン熱帯雨林の保護には効果的な手段である。これら伐採業者の半数以 上は違法伐採あるいは略奪的な伐採事業を営んでいる。彼らは森林を焼き払い、 農業や牧畜による森林の開拓を進め、最終的にはアマゾン深部を破壊に晒す伐採 を行っている。人工衛星からの画像はブラジルアマゾンでの伐採速度が近年加速 していることを示している。ブラジル政府の推定によると、2001年8月から2002 年8月のわずか1年の間にサッカー場500万個分に匹敵する面積の森林が破壊され た。これは、たった1年で森林破壊の増加率が40%も上昇したことを示している。 不幸中の幸いは、人工衛星写真は先住民族の土地がこの伐採からは免れているこ とを示したことだった(注2)。

「デニ族の土地境界画定は、世界中で先住民と協調した保護域の設定や法的手段 によって原生林の破壊をくい止めようと戦っている多くの人々にとっての歴史的 な第一歩です。」とグリーンピースのアマゾン・キャンペーナーのニロ・ダビラ は語る。「私たちはこの4年間デニ族の人々と共に土地の所有権を勝ち取るため に闘ってきました。その結果学んだことは、アマゾンの生物多様性を経済的利益 の追求や持続性のない消費行動から守る唯一の方法は、アマゾンを自分たちの土 地として育んでいる人々とパートナーシップを組んで活動するということでした。」

グリーンピースは1999年以来、アマゾン川の支流、プルス川とジュルア川に挟ま れた153万ヘクタールにおよぶデニ族の土地の境界画定を目指した活動を繰り広 げてきた。当初グリーンピースは、輸出用合板を製造するための材木をアマゾン に求めていたマレーシアの巨大伐採企業WTK社による、31万3000ヘクタールの土 地買収を調査していた。WTK社は同社が事業を展開するすべての国で法律違反や 先住民の権利を侵害している。実地調査の結果グリーンピースは、WTK社の購入 した土地の半分の15万ヘクタールがデニ族の土地であることをつきとめた。

デニ族は1985年当初、公式な手続きを通した土地境界画定作業を行っていたが、 作業はなかなか進展しなかった。WTK社の進出が明らかになったことで、デニ族 はグリーンピースに応援を要請して自分たちの土地の保護にとりかかった。最初 は手続きの迅速化を図って、2001年までに自分たちの土地の境界を画定するつも りだったが、地元行政府のごたごたに巻き込まれてその試みは失敗した。そこで デニ族の人々はグリーンピースの補佐をともなって自主的な境界画定の作業にと りかかった。

「私たちが自分の土地を離れることは絶対にない。」首長の一人クブイ・デニ氏 は力強く語った。「この土地は私たちの生存に不可欠です。食糧を狩猟、魚釣り によって確保しなければなりません。そのためには広い土地が必要なのです。」

デニ族が土地境界画定に取り組み始めたことからグリーンピースは、アマゾンの 先住民との活動経験が豊富なブラジルの2団体CIMIとOPANと接触して、両団体と 共にデニ族の人々に土地の境界を識別するためのスキルと、境界画定作業の主導 権の取り方を伝えた。OPANのイバー・ブサット氏は、「他の団体に援助を要請さ れたことと、デニ族と共に彼らの当然の権利を求めて戦いを始めることはとても 意味のあることでした」と、語っている。次のように振り返る。

2001年9月、デニ族の人々は自主的に土地の境界画定作業をはじめた。グリーン ピースはそれを援助するために13人のボランティアスタッフとヘリコプターを現 地に派遣した(注3)。1ヶ月以上の間、過酷なアマゾンの森林の中での作業が続 いた。やがて事態を知ったブラジルの法務省は、自主的な境界画定作業の中止と、 NGOの退去を命令した。しかし、デニ族の人々は作業をやめなかった。交渉の結 果、ブラジル政府はデニ族の努力を認めるに至った。2001年10月、当時のブラジ ル法務大臣のジョゼ・グレゴーリは、この土地に対するデニ族の占有権を保証す る宣言法に署名した。2003年5月、正式な境界画定作業が始まり、それがこの度 終了した(注4)。

「デニ族の土地境界画定への闘いは、自らの運命を切り拓いてゆこうとする先住 民族の不屈の意志を示す好例です。」グリーンピースのアマゾンキャンペーン・ コーディネーターのパウロ・アダリオは語る。「これはアマゾンの森林資源の保 護は、アマゾンを最もよく知る人々の手に委ねられるべきだということの生きた 証です。アマゾンを最もよく知る人たちとは、すなわちアマゾンの先住民です。 今回の勝利は本当に喜ばしいことです。」

注釈
CIMI: Conselho Indigenista Missionario(先住民宣教協議会:グリーンピー ス・ジャパン訳)の略。ブラジルカトリック司教協議会の下部組織。http://www.cimi.org.br/
OPAN: Operacao Amazonia Nativa(先住アマゾン支援計画:グリーンピース・ ジャパン訳)の略 http://www.opan.org.br/ 両団体共アマゾンの先住民との活動経験が豊富。
ブラジルの国立宇宙研究所INPEによると2002年アマゾンの森林破壊は25,460km2 という容認できない数値を示した。史上2番目の破壊率である。
13人のグリーンピース・ボランティアスタッフの出身国はブラジル、チリ、 イギリス、オランダ、スウェーデン、スペイン、ギリシャ、ドイツ、オーストリ ア、アメリカ、中国。
ブラジル政府の先住民担当官庁のFUNAIに委託されたSETAG社は、デニ族の土 地境界画定作業を2003年5月に開始した。作業では森林に目視可能なトレールが 敷かれ、先住民の土地であることを示す標識が設置された。境界画定作業の資金 はブラジル政府とPPG7資金(世界上位7裕福国によるアマゾン保護のための試 験計画)が負担した。
詳しくはグリーンピース・インターナショナルのWebサイト(英語)をご覧下さい。 http://forests.greenpeace.org/deni/index.html

お問い合わせ:

グリーンピース・ジャパン
東京都新宿区西新宿8-13-11NFビル2F
電話 03-5338-9800 FAX 03-5338-9817
森林問題担当 尾崎由嘉
広報担当   城川桂子