【8月29日、ロンドン】 昨夜発表された日本最大の原子力発電企業による10年以上もの長期に渡るトラブル隠蔽のニュースは、既に様々な障害を抱えている日本の原子力産業界にとって、非常に大きな痛手となった、とグリーンピースは今日声明を発表した。

「日本政府と原子力産業界は、またしても原子力発電所の最も基本的な安全事項さえも見過ごしてしまうということを広く明らかにしました。原子力発電所での事故というのは、数千万人を甚大な被害に巻き込むものです。今回の事件は、氷山のほんの一角にしか過ぎません。原発の安全性を監督する政府当局と原子力産業界が公表しなければならない関連情報はまだまだあります。今回の事件が立証したことは、原子力業界の体質はその本性において不誠実であり、信頼も信用もまったくできない業界だということ。この事件の余波は、世界中に影響を与えることでしょう。」とグリーンピース・ジャパンの核問題担当の鈴木かずえは語る。

東京電力は、1980年代から90年代にかけて、同社の原子力発電所の安全検査記録を意図的にごまかしてきたことを公式に認めた。これによって、日本の原子力政策、並びに、BNFL英国燃料会社と仏コジェマ社のプルトニウム関連企業2社の事業計画に暗雲がたちこめたことは間違いない。日本の原子力発電事業は、商業発電規模においては世界3位だが、数千キロものプルトニウムを使用するという新たな原子力発電所建設計画においては世界最大である。

今回の事件の、直接の影響のひとつは、東京電力が今年の9月から開始を予定していた、プルトニウム混合酸化燃料(MOX)を同社の原子炉に導入するというプルサーマル計画の無期限延期である。東京電力の社長、南直哉は、昨夜の緊急記者会見で、このことを発表した。

今回、東京電力が事実の部分的公表に踏み切ったのは、安全検査を請け負っていた会社、ジェネラル・エレクトリック・インターナショナル・インク(GEII)の元社員の告発があったからであった。この“内部告発者”は2000年の7月に、旧通産省(現経済産業省)に事実を伝えていたが、経済産業省は今回はじめてこの問題の調査を行っていたことを公表した。つまり、日本政府は原発の安全性に重大な問題が存在しているという情報を掴んでいながら、一方でそれを国民から隠し、原発の「安全」を2年以上にわたって強弁してきたということだ。 今回明らかになった問題のひとつは、“シュラウド(*1)”とよばれる原子炉の炉心隔壁に腐食が発見されたことだ。東京電力はこの事実を少なくとも1年間政府に報告していなかった。しかし、東京電力による安全検査結果の隠蔽と虚偽報告は、今回のシュラウドやその他炉心内の重要部分のみにとどまるものではない。

東京電力は、プルサーマル計画の安全性に大きな疑問を抱く地元の根強い反対の声を無視して、今年の9月下旬にもMOX燃料を原子炉に装荷する予定だったのである。ところが、MOX燃料の導入を予定していた原子炉の重要な部品に深刻な腐食があることが、つい先週、発覚している。

東京電力のプルサーマル計画の即時延期は、日本との契約を取り付けることに必死なBNFL英国燃料会社と仏コジェマ両社の核燃料事業計画にも暗い影を落とした。BNFLは、最大の得意先である日本の顧客に対して、重要な安全検査結果のデータを捏造したことが明らかになったために、受け入れを拒否されたMOX燃料を現在日本から回収輸送をしている真最中である。BNFL社がMOX燃料の回収輸送を行っているのも、英国政府が日本政府に対して1億ポンドもの賠償金を支払ったのもすべて、BNFL社が日本と新たな契約を結ぶということが暗黙の大前提になっているからである。
プルサーマル計画が事実上凍結されたことによって、BNFL社と仏コジェマの両社が日本でMOX燃料事業を進めていくことは困難になった。日本から英国へのMOX燃料の返還輸送に対しては、世界80カ国が強い反対を表明している。日本政府とBNFL社は、特に先陣を切って反対を表明している太平洋諸島の国々に対して、国連海洋法条約の無害航行権を持ち出して、輸送の安全と無害を保証する通達を出したが、輸送ルート沿岸国はそれを拒絶すると同時に、領海を核物質の輸送に使用する日本側とBNFL社を強く非難した。

「今回の衝撃的な事件の発覚は、何千キロものプルトニウムを使うなどという狂気の沙汰としかいいようのない日本の巨大な原子力政策に対して、辛抱強く反対の声を上げてきた、反核運動に関わっている日本の人たちがいかに正しかったかということを証明する出来事です。またこれは、日本政府による危険極まりない核物質の輸送と、それに付随する日本政府の自己満足でしかない“安全宣言”に反対している世界中の国々による主張の正当性を裏付けることでもあります。今回の重大事件の主役である東京電力は、事件が発覚しなければ涼しい顔をして、腐食が発見されて欠陥が明らかになった原子炉に、数週間後にもプルトニウムを 入れようとしていたわけですから、もう、開いた口がふさがりません。全く欠陥のない原子炉でも、MOX燃料を使うことは危険だとされているのですから。このようなとんでもない事件は、これが原子力産業でなければ信じられないことです。」とグリーンピース・インターナショナルの核問題担当:ショーン・バーニーは語った。

注(*1) 炉心シュラウド亀裂
炉心シュラウドとは、核燃料棒を覆う、周りが溶接されたステンレス製の筒状隔壁。原子炉の中心部。冷却水漏れなどの事故があった場合、冷却用の水を再充填する容器として絶対に必要な部分である。アメリカなど各国の沸騰水型原子炉では、近年、周りの溶接部分にかなりの数に上る深刻な亀裂が発見されるケースが増えてきている。溶接部分にたった数ミリのズレがあるだけで、燃料棒の調整に支障が発生し、制御棒を挿入できない事態が起こる。その結果、炉心冷却機能が失われることになる。そうすると、炉心融解(メルトダウン)という大惨事が起こることになる。
詳しくはグリーンピース・ジャパン核問題Webサイトをご覧下さい。

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グリーンピース・ジャパン
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広報担当:城川桂子
核問題担当:鈴木かずえ (現在、7月5日高浜を出港した、データねつ造プルト ニウムMOX燃料の輸送船のイギリス到着に抗議するため、現地に行っておりま す。8月30日ロンドン外人記者クラブにて、記者会見を行います。ご連絡は、城 川までお願いいたします。)