英国ロンドンで7月23日から27日まで開催されたIWC総会に関して、関連する活動の紹介と、主だった議案の結果とそれに関するグリーンピースの考えをまとめました。


ノルウェーの、鯨肉・脂身の輸出再開について

総会に先立ち、グリーンピース・ノルディックが中心になって、ノルウェーのオスロ空港に乗り入れている主要航空会社各社にアンケートを実施し、ノルウェー政府が日本向けに鯨肉・脂身の輸出再開をしていることに対し、空輸を受注するかどうかを尋ねました。その結果、21社が受注を辞退すると回答を寄せています。

グリーンピースは、ノルウェーの鯨肉輸出再開が、主たる輸入国となるはずの日本での、違法鯨肉(密漁・密輸)流通をさらに見えにくくすると考え、輸出再開に強く反対します。


日本の、経済援助による票買いについて

また、総会直前に放送されたオーストラリア放送のインタビューの中で、IWC日本政府代表団の小松正之水産庁参事官が、「多くの国は日本からの援助の見返りに捕鯨再開に対する日本の努力を支援してくれている。米国やオーストラリアは他の国へ軍事援助をしているが、日本は経済援助をしているのだ。これのどこが悪いのだ」と、票買いを認める発言をしたと報じました。

グリーンピースはかねてより日本による票買いを警戒していました。
昨年は、象徴的な事件がありました。
アサートン・マーチンドミニカ農業相(当時)が、昨年のIWCアデレード会議後に、政府の対応に抗議して辞任したのです。彼は閣議決定どおりの投票を行おうとしていたのに、直前になって本国から「日本支持にまわれ(南太平洋サンクチュアリ提案に反対票を投じよ)」という指示が来た、というのです。その投票については指示どおりに投票したものの、国の姿勢に納得がいかず、辞任に至りました。マーチン氏は今回、グリーンピースの要請に応じて、会議場のテラスで、この体験を語りました。

ドミニカだけではありません。
東カリブ6カ国(アンティグア・バーブーダ、ドミニカ、グレナダ、セントルシア、セントヴィンセント&グレナディン、セントキッツ&ネヴィス)及びギニアが日本支持にまわると予想したとおりの結果になり、今年加入したパナマ、モロッコも当初から日本支持にまわりました。いくつかの議案では棄権にまわり、「票買い」の批判をかわそうとした様子もありました。

グリーンピースは、票買いの進行に非常に危機感を持っています。
契約済みの経済援助は、投票結果とは無関係に遂行されるべきです。

グリーンピースはIWC総会に先立って5月に所有船をカリブに派遣し、船の一般公開などを行いながら、サンクチュアリ案への支持を訴えました。港には、日本の経済援助によって建設された市場設備がありましたが、海流の関係で地元の漁船が着岸できず、結局使用されないままに放置されている現場を目撃しています。
形ばかりの経済援助は真の援助でないばかりか、票買いといった取引に利用することは、国民をバカにした行為です。


アイスランドの再加入について

また、捕鯨国であり1992年に脱退したアイスランドが、商業捕鯨禁止(モラトリアム)について留保付きでIWCに再加入したことについて、米国とオーストラリアが「留保は認められない」とする議案を提出し、賛成19、棄権3で可決しました。(捕鯨容認国は「IWCに留保の是非を判断する権限なし」として16カ国が投票しなかった)このため、アイスランドは正式な加盟国にはなれず、オブザーバーとしての大会参加(投票権無し)については、18対16で認められました。

アイスランドの再加入は、ノルウェーの鯨肉・脂身輸出再開に刺激されたものと考えられます。捕鯨を再開し、日本へ輸出しよう、という計画であろうと思われます。日本の調査捕鯨が捕獲頭数を増やしていること、ノルウェーが商業捕鯨禁止(モラトリアム)に異議申し立てをして自国周辺海域で捕鯨を行っていること、自国消費だけでなく日本に輸出するほど「たくさん」捕獲していること。このようにして商業捕鯨禁止のモラトリアム期間中であるにもかかわらず、実際には捕獲頭数が増加しつつあるのが現状です。


鯨類の生息数について

科学委員会では、南極海のミンククジラは76万頭よりも少ないのではないか、より新しいデータでは30万頭を切るのではないか、という意見もあります。一方、日本の見解は、現在100万頭~140万頭はいる、というものです。この見解の差は、データのまとめ方の違いなどが指摘されていますが、科学者によっては、温暖化による海氷の減少が影響しているといった指摘もありました。

生息数把握のための目視調査はIWCが行っていて、30万頭説も140万頭説も同じデータから導き出されています。

この件については、さらに2~3年の継続調査が必要で、できれば2003年のドイツ総会で数字の提出を図るとしています。

グリーンピースでは、「何頭いるからどうこう」という論議よりも、人間の経済活動がもつ利益追求の構造が過去に乱獲を引き起こし、いまもなお同じ経済構造下で商業捕鯨再開が行われようとしていることに注目すべきであると考えます。商業捕鯨を再開すれば、さらにクジラ資源の枯渇を引き起こすことは確実であると考えています。


過去の捕獲実績見直しについて

また、グリーンピース・ジャパンが6月に講演を行った、近藤勲氏(「日本沿岸捕鯨の興亡」著者)のデータが、粕谷・ブラウネル両氏共同提出のレポートとして科学委員会で紹介されました。それによると、水産庁が把握している公式の捕獲頭数よりも多く、1.6倍になることが報告されました。このため、データの再吟味の必要性と、次回(下関開催)近藤氏を招く考えであることが報告書に述べられています。

この件については、総会のなかで、イタリアなどにより、「日本の過去の商業捕鯨時代の捕獲数、捕獲方法等の記録に対する再分析が必要である」との疑義の表明がありました。

これに対して総会の中で、日本政府代表団の一人である小松正之氏が近藤氏の本に触れ、「この本の中のデータは単なる一個人が勝手に出した資料であり、客観性に乏しく、日本政府によって認められたものではない。日本政府としては、近藤氏に当該書籍の出版のいきさつを含め、データの説明を求める調査をする。また、来年のIWC開催当事国として、近藤氏をIWCに連れてきてデータについてそこで説明する」旨を表明しました。

日本政府が「連れてくる」という言い方をしたのは、近藤氏を一時的に国家公務員として日本政府代表団に加えるという意味であり、近藤氏の発言に枷(かせ)をはめて日本にとって都合の悪いことを発言させないもくろみであると考えられます。

近藤氏のような発言を尊重し、公開の場で分析してこそ、科学です。


サンクチュアリ提案について

今回は、南太平洋と南大西洋の2サンクチュアリ提案が議題に上りましたが、いずれも可決には至りませんでした。

グリーンピースとしては、現状の商業捕鯨禁止(モラトリアム)は捕鯨再開を前提にした、暫定的な措置にすぎないため、サンクチュアリという恒久的な環境の確保が望ましいと考えています。94年に設定された海域は、南半球のヒゲクジラが食糧にしているオキアミの発生海域をカバーしているものでした。今回の提案海域はさらに低緯度海域までをもカバーしようというものでした。

クジラはすでに十分にその数を減らされていて、種によっては捕獲禁止から数十年を経てもなお回復の気配が見られないものもあります。海洋生態系はさまざまな要因が複雑に絡み合って成り立っています。まずは直接的圧力である捕獲を恒久的に排除することが必要です。


終わりに

グリーンピース・ジャパンは今年は2名をロンドンに派遣し、日本政府など捕鯨推進側の動きをウォッチし、日本政府代表団や捕鯨推進派NGOがいうほど日本国民が鯨肉を求めてはいないことを知らせ、日本政府が行っている票買いの事実を明らかにすべく各国政府代表に対してロビー活動を行ってきました。また、Webサイトには、「クジラ問題コーナー」を新設し、会期中は毎日会場と周辺の様子をレポートしました。

来年5月には第54回総会が下関で開かれます。
日本側は、自国開催のため、人も資金もさらに大量に投入してなんらかの収獲を得ようと策を弄するでしょう。
グリーンピースは、日本などによって票買いが進み、今後の新規加盟が日本支持票の増加に直結することを危惧しています。

グリーンピースは、商業的な捕鯨は、クジラ資源をたちどころに枯渇させる過剰漁業である、との立場から、引き続き商業捕鯨反対、また、商業捕鯨再開に向けた調査捕鯨の拡大に反対を主張していきます。