4月4日、グリーンピース・ジャパンが事務局となっている「東電MOX差止裁判の会」は、東京電力が、裁判の中で公開に応じなかった品質管理データの公開を求めて、福島県知事に要請した。公開を求めているのは、福島第一原発3号機用ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の燃料片の寸法検査データ。

対応した福島県原子力安全対策課では、「公開要請も含め、原子力政策についての見直し作業の中で検討する」とした。

また、裁判の会では、同時に、福島県の原子力政策についての見直し作業を開かれたものにし、プルサーマルに不安をいだく住民の意志を反映させるようにも求めた。

「裁判の会」では、11日には新潟県にも、東電にデータ公開を求めるよう、働きかける。

なお、同種のデータは、福井県の要請により、関西電力高浜原発用のものに関しては公開された。その結果、データを分析した市民により不正が発覚、同燃料は、製造元の英国に送り返されることになっている。


以下、要請書






福島県知事
佐藤栄佐久さま

要請書

東電MOX燃料データ公開
装荷断念
原子力政策見直しに関しての研究会は公平な人選を

2001年4月4日
東電MOX差止裁判の会
原告代表 林 加奈子


福島県に対し次の要請を致します。

一、原子力政策についての県の検討作業を開かれたものにして下さい。県庁に設置予定の検討組織での議論をガラス張りにし、すべて公開してください。

一、検討の中に、プルサーマルに不安をいだく住民の意志を反映させてください。差止裁判の原告であった人を含め、そうした意志を代表する人を検討委員に加えてください。

一、東京電力に対し、1ミクロン刻みの抜取検査生データの開示を県としても強く要請してください。

一、東京電力が上記データを公開し、データの異常について合理的な説明を証拠を示した上で行なわない限りにおいては、MOX燃料の装荷は認めないで下さい。


理由は以下のとおりです。

1. 福島地裁の不当な決定

福島地裁の決定は3月23日、「本件MOX燃料ペレットの外径寸法に係る抜取検査に不正操作があったとは認めることができない」「本件MOX燃料が安全性に欠けるとする主張は理由がない」と原告の請求を棄却しました。裁判において原告は不正操作を強く示唆する証拠を示し、東電にはデータを開示してこれを説明するよう再三求めました。裁判所は立証を避ける東電に対し、2度にわたる求釈明でデータ開示をしない理由を質し、具体的な反論を求めました。そして東電はこうした要請に一切応じることなく結審を迎えたのです。原告はこうした経緯から、少なくとも、不正操作について疑義は払拭されないことを指摘する決定内容を期待しました。しかしこうした期待は見事に裏切られました。決定は東電の証拠のない言い分だけをことごとく採用し、原告の証拠に基づいた立証を無視する全くひどい内容となっています。決定は不当と言うしかないものです。

データに異常がみられるとの原告の立証については、「各ロット毎の抜取検査データを正規分布と比較することにより異常が判明するという前提自体が誤りである」と判断し、砥石の調節過程のせいで必ずしも正規分布が成り立つ必要がないという東電の主張を無条件に認めています。ところが東電は、砥石の調節なるものが具体的にどのように行われているかの説明を、裁判の中では一切行っていないのです。さらに裁判所は、立証責任を全面的に原告側に負わせています。資料のほとんどを電力会社側が握り、限られた資料しか公開されない中で、こうした態度が貫徹されるなら、電力会社が情報非開示の態度をとればとるほど彼らに有利になってしまいます。私たちはこれを断じて許せない決定文だと捉えています。


2. 東電の情報非開示姿勢を批判した部分について

その決定文中に東電の情報非開示の姿勢を批判している1ページ分の記述があります。裁判所はまず、「原子力の安全性の確保は多数の公衆の生命身体の安全性にかかわるものであるから、原子力発電所で使用される原子燃料の品質が問題とされたような場合には、可能な限り具体的なデータを明らかにして各方面における検証を可能とするように務めることが原子力分野で事業を実施する企業の責務というべきであ」る。とした後、ベルゴ社に対し、「本件抜取検査データを企業秘密に属するとしてその一般公開を拒絶しているのであるが、ペレット外径寸法の検査データが重大な製造ノウハウにかかわるものとはおよそ考えがたく、現に競争相手企業であるBNFL社がこれらのデータを一般公開していることに鑑みれば、ベルゴニュークリア社の上記のような姿勢は非難されてもやむを得ないものがある。」と述べ、さらに東電に対し、「発注者の立場で、ベルゴニュークリア社に対し、重ねて特段の要請を行い、同社の頑なな対応に翻意を促し、本件抜取検査データを公開すべく努めた形跡が窺えないことは、原子力発電所という潜在的に危険な施設を設置稼動する立場にあるものとして、必ずしも充分な対応とはいい難い。」と批判しています。これは決定文全体と矛盾した内容です。

データ開示の焦点は、1ミクロン刻みの抜取検査データにありました。裁判で原告は、東電が公表した限られたデータにも、不正を示唆する異常があるとして、東電の加工された4ミクロン刻みデータから1ミクロン刻みのデータを予測する作業を行ない、山が2つある異常なカーブをもつロットを見出しました。原告はこれを正規分布と比較しながら指し示した上で、東電は1ミクロン刻みの元データを開示した上で異常の原因を説明すべきであり、それがない以上は不正があったと見なされると主張しました。正規分布と比較したのは、全数計測データが公開されないためでした。

裁判所は、情報非開示を批判した1ページに続く部分で、データ開示の最大の焦点であったこの1ミクロン刻みの抜取検査データを開示することの必要性を、〜@決定内容に則し、正規分布との比較を誤りと断じる、〜A全数計測データについてはベルゴ社では保存されていない、〜B以上から、開示しても比較の相手が無いので開示をせまる必要が無い、との強引な理屈で否定します。さらに、東電が意図的にデータの隠蔽を図った形跡はないと決めつけ、東電が不正の無いことを立証しないならば不正があったとみなされる、ということはできないと結論し、矛盾する決定全体との整合性を保とうとしています。


3. 決定文の明らかな誤り

しかし、決定のこの部分は明らかに誤っています。1ミクロン刻みの生データがあれば必ずしも正規分布や全数計測データとの比較を前提としなくても、異常は明らかになるのです。関電用BNFL社製MOXで不正が認められた3つのロットのうち2ロット(P824, P814)は他のロットのデータのコピー、残り1ロット(P789)はそのロット内のデータのコピーですが、いずれも正規分布や全数計測データとの比較なしに、抜取検査データだけから判定できるもので、英国原子力規制当局(NII)は現に、この手法でBNFL社製MOX燃料の分析を行ない、不正を明らかにしています。東電の場合もブレンダーごとの上・中・下部それぞれの1ミクロン刻みの抜取検査データが明らかになれば、不正の判定が可能となります。

私たちは、決定のこの部分の誤りを正確に捉えたときに、情報非開示を徹底的に批判した1ページの意義が浮かび上がってくると考えています。この1ページに従っても、1ミクロン刻みの元データが開示され、「各方面における検証」がされることによってはじめて、不正の有無の判断が行なわれることになるのです。福島民友紙三月二五日の社説も「問題なのは “信頼性を推認できる” はずの検査データそのものの公開を、東電側が法廷でも拒み通したことである。疑問は重く残る。」「東電は地裁の決定に際して「今後も(地元の)理解活動に全力を尽くす」とコメントした。注釈すればその「理解活動」の第一歩は、情報の公開でなければならない。」と論調しています。


4. 福島県の原子力政策見直しについて

東京電力が装荷を断念せざるをえなかった直接の理由は、佐藤福島県知事がこれを強く拒否したことにあります。佐藤知事は東京電力の発電所凍結を受け、「核燃料サイクルを含めたエネルギー政策を根本的に見直すべきだ」「見直しには(MOX燃料を使う)プルサーマルも含まれる。計画について県民の理解は進んでいない」などと述べ、装荷を認めませんでした。これを「プルサーマルを人質にして地域振興策を分捕る条件闘争」としか見ることができなかった国と東京電力に対し、知事はさらなる不信感を抱いているとみうけます。

福島県は私たちの提訴直後から、裁判の行方を注視する姿勢を公にしていました。佐藤知事は県民の理解を進めることを再三、東京電力と国に求めていました。裁判で情報開示を一切拒否し、立証を放棄して逃げ回る東電の態度を福島県は苦々しい思いで見ていたと思います。さらに原告数に示される県民の反対意識が知事の決断を促したと考えます。原告数は全国で1915名、うち福島県民は930名、双葉郡内で48名にものぼります。この背景に、名前は出せないがプルサーマルに不安を抱く多くの県民がいます。知事も「県民の大半は反対している」と発言しています。私たちは、裁判での東電の態度、県民原告数に示される県民の反対意識が、知事の決断を促したと信じています。

佐藤知事は、県庁に原子力政策全体に関する検討組織を設け、政府や電力会社からの意見聴取も交え1年以上かけて議論すると述べています。検討作業では「(使用済み核燃料を再利用しない)ワンススルーが可能かどうか考える」「(核燃料サイクル路線より)少なくとも県民の不安感が少ない。コストも安い」「(我々の論議で)ワンススルーが良いとの結論になれば、(プルサーマル凍結は)2年にも3年にもなる」との発言が伝えられています。私たちは、県のこうした姿勢と取り組みを評価するとともに、今後の県の検討作業が開かれたものであることを強く求めます。



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