福島県や全国の市民が東京電力福島第一原発3号機用ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の使用差止めを求めた仮処分申請の第1回口頭弁論が、12月26日、福島地方裁判所で開かれた。証人として法廷に立ったのは英国の核物理学者フランク・バーナビー博士と大阪府立大学講師の小山英之氏。海外からの証人が採用されたのは、日本の原発裁判で初めてとのこと。

これまで4回の審尋(非公開)が開かれてきたが、今回は初めての公開の法廷での口頭弁論となった。かねてより原告側が裁判の公開を希望していたのが実現した。

午前10時から12時までの主尋問で同博士は福島原発用MOX燃料を製造したベルゴニュークリア社のP0工場における製造過程と品質管理の双方において明らかな弱点があったことを指摘し、この燃料を使うと深刻な原子力事故のリスクが増大すると証言した。

博士の証言の概要は以下の通り。

ベルゴニュークリア社でのBWR(沸騰水型軽水炉)用MOX燃料の製造経験は少ない。(同社でのMOX燃料製造合計は420tHM、このうちBWR用はおよそ10%)

ベルゴニュークリア社で稼動中のP0工場は、より自動化の進んだ、製造能力の高いP1工場が建設されれば閉鎖されていただろう工場であるが、P1工場がグリーンピースや市民による訴えにより建設許可が無効となったため、いまだに稼動せざるをえない工場である。そのため需要を満たすために製造能力ぎりぎりでの製造が余儀なくされ、そうした圧力は従業員にデータねつ造をさせることにつながる可能性がある。(P0の製造能力は年間35tHM。P1の製造能力は年間70tHMとなるはずだった。)

ベルゴニュークリア社の使用するMIMAS法は、英国核燃料会社BNFL社の開発したSBR法よりもプルトニウムとウランの粒子の混ざり具合が劣ると言われている。プルトニウムとウランの粒子がよく混ざらないと、プルトニウム粒子のかたまり(プルトニウム・ホットスポット)が生じる。ホットスポットができると燃料棒の被覆管に損傷を与え、放射能漏れ事故のリスクが高まる。また、ホットスポットを検査するサンプル数は非常に少なく、さらに、ペレットの一部分しか検査していないのも問題。

ベルゴニュークリア社の、スクラップ(不合格品や余剰の粉やペレット)をリサイクルする能力は限られているため、不合格品を最小限にしようとする圧力が従業員にかかっているだろう。(仏核燃料会社のコジェマ社ではマスターブレンド中のスクラップの量は50%まで。ベルゴニュークリア社では最大で18%)

ウラン燃料製造工程と決定的に異なる労働者被曝の問題としてプルトニウム241の崩壊によってできるアメリシウム241から出るガンマ線による被曝が考えられる。コジェマ社のメロック工場では、アメリシウム241の量は、3%に制限されており、ベルゴニュークリア社では1.7%に制限されている。これはベルゴニュークリア社では遮蔽と自動化が進んでおらず、労働者がより大きな量の放射線に曝されることになるからであることを示す。

米国核管理研究所科学部長のエドウィン・ライマン博士がまとめている最中の研究によれば、福島用MOX燃料に許されている外径公差の不確かさ20ミクロンは大きすぎる。現在の燃料を使えば、出力発振によって深刻な炉心溶融事故が起こるリスクが高まるという。

制御棒落下事故時に、燃料破損をもたらすような作用をPCMI(ペレット-燃料被覆機械的相互作用)と呼ぶ。最近まで、PCMIはBWRにとって深刻な問題ではないと考えられてきたが、日本原子力研究所では、高燃焼度のウラン燃料では、この考えが正しくないことが示されている。また、ATR(新型転換炉)ふげんで使ったMOX燃料での実験では、低い燃焼度でもPCMIが発生したという。

以上のことから、MOX燃料の使用は安全ではない、と博士は結論づけた。


続いて、英国核燃料会社BNFL社の関西電力用MOX燃料の公開データを分析し、データねつ造を発見した小山英之氏が証言した。氏は、抜き取り検査のデータを、現在、4ミクロン刻みでのグラフでしか出してないが、それでは、不正の跡が隠されることを説明し、ブレンダー(バッチ)ごとの1ミクロン刻みのデータを公開しなければならないと述べた。

次回は1月30日午後3時半より第2回口頭弁論が行われる。口頭弁論は一般の傍聴が可だが、希望者多数の場合は抽選となる。次回の口頭弁論で、決定(判決)の見通しについて、裁判長が言及するかどうかが注目される。なお、東京電力は、2001年4月の定期点検でMOX燃料を装荷するのが適切などと発言している。原告団はこれを阻止すべく、準備をすすめる。