【モスクワ/サハリン・コルサコフ発:】 グリーンピースは本日、サケの流し網漁が行われている千島列島周辺のロシア海域で2週間にわたって行ってきた航海パトロールの成果を発表した。グリーンピースのキャンペーン船「虹の戦士」号による今回の調査では、絶滅危惧種を含む野生生物の混獲の実態記録や違法操業の摘発、漂流している網の回収などを行い、流し網による被害の証拠を収集した。この調査にはロシア海洋環境局1)の漁業調査官3人が同行した。



混獲の実態

6月9日に「虹の戦士」号が航海パトロールを開始して以来グリーンピースは、ロシアから同海域で操業許可を受けた漁船の網や、遺棄された流し網に、様々な海鳥や海洋哺乳類がかかって死んでいるのを目撃してきた。航海では、許可海域外に敷設され、所有者が名乗りでない2つの違法な流し網(長さの合計は12kmに及ぶ)を発見し、これ以上の混獲の危険を避けるためこれらの流し網の回収も行った。

このうちの一つ、漂流していた流し網には、1600匹余りのサケが大半が腐りかけた状態でかかっており、少なくとも5頭のイシイルカ、5匹のネズミザメ、また絶滅の危機にあるツノメドリ類を含む海鳥(tufted puffin)30羽以上がかかって死んでいることを確認し、流し網の被害の実状を記録した(6月17日)。

流し網は、それに向かって突っ込んだ生き物に絡んでそのほとんどを死なせてしまうため、「死の壁(wall of death)」として知られている。


違法操業の摘発

6月10日には、サケの回遊ルートになっている違法海域に流し網を設置している日本の流し網漁船を確認したため、「虹の戦士」号に乗り組んでいるロシアの漁業調査官が乗り込み、臨検を行った。この船は根室の「第15海鷹丸」で、同船は、許可されている4kmの二倍の長さの網を使用し、さらに許可番号などを記さないブイを使うなど、ロシアの漁業規則に違反して操業していた。網にはアザラシ、ネズミザメ、二羽のウミスズメなどの野生生物が混獲されて死んでいることも確認された。同船にはこれらを併せて32,934米ドル(約350万円)の罰金が課された。


漂流物の被害

6月12日、遺棄されて漂流している流し網を、千島列島のライコック(Raykoke)島付近で回収した。40mほどの網の断片には12羽余りの白骨化した鳥の死体が絡まっていた。これは、膨大な量の網の残骸が海を漂流し、トドや絶滅の危機にある種のラッコの繁殖地となっている千島列島の原始の島々に打ち上げられている実態を示す一断面である。


流し網の禁止へ

1989年の国連総会は、公海における大規模な流し網漁のモラトリアム(一時停止)に全ての国が合意するよう勧告を出し、続いて1991年には全世界的に公海でモラトリアムが実現されている。しかし、米国が同国の海域に対して1989年に流し網を全面禁止して以来、ロシアの排他的経済水域(EEZ)は、日本の流し網漁の操業対象域となってきた。ロシアは今年も、およそ70の日本漁船に対して、EEZにおける流し網漁の許可を出している。水揚げの全てはロシア国外、大方は日本で捌かれる。

こうした事実にも関わらず、ロシアは、1998年の国連の事務総長当ての報告において「1998年7月2日付けの国連事務総長宛の回答として、ロシア連邦は同国が如何なる商業的な流し網漁にも関与していないことを通知する」としている。*2

ロシアは、破壊的で無差別な漁獲行為である大規模流し網漁に対し、自国の海域で依然として許可を与えている世界でも数少ない国の一つである。今回のグリーンピースの行った公海パトロール調査は、ロシア海域における流し網漁の規制がいかに機能していないか、そして混獲被害の実態がいかに大きいかを示唆している。

ロシアEEZで流し網の操業許可を与えられているのは日本漁船だけである。漁業規則の違反がないよう監視する仕組みはあってもそれは違法操業をなくす機能を果たしてこなかった。このため、違法操業による乱獲が実際に行われており、また、流し網を許可しつづける限り混獲被害はなくならない。この海域における乱獲や無差別な混獲をなくすためには、他国にならって、ロシアも流し網漁の全面的な禁止を導入することが不可欠である。



1:the Russian Marine Environmental Service。調査官はロシアの排他的経済水域(EEZ)において漁業規則の遂行させる役目を負っている。航海パトロールに当たっては、「虹の戦士号に、公式調査であることを示すロシア海洋環境局の旗を掲げていた。

2:各国から国連への報告”Large-scale pelagic driftnet fishing, unauthorised fishing in zones of national jurisdiction and on the high seas, fisheries by-catch and discards, and other developments”, Report of the UN Secretary-General 1998.より