グリーンピースは5月9日に、豊島区上池袋にあるごみ焼却炉施設の外側に登り、日本の焼却に偏重したごみ処理の危険性をアピールするための横断幕を掲げた。アピール終了後、横断幕をたたんで下りてきたクライマー4人が “建造物侵入” で逮捕された。この2日後の11日、グリーンピースのキャンペーン船「虹の戦士」号および、グリーンピース・ジャパンの事務所(代々木)が、警視庁池袋警察署と公安部による強制家宅捜索を受けた。その際、捜査当局は事件に関連のない航海記録、キャンペーンのためのリーフレットの在庫(以上船から)、またグリーンピース・ジャパンの会員名簿(事務所から)をMOでコピーし、持ち去った。しかし、この強制捜査と差し押さえは、以下の諸点から、明らかに違法であり、かつ本来不必要なことであったため、グリーンピースは本日、この操作による差し押さえの取り消しと、違法に持ち去れた全ての押収物の返還を求める訴え(準抗告)を東京地裁に対して起こした。以下はその概要である。(詳細は、添付資料2を参照)


【捜査、差し押さえの違法性】

1. 捜索令状の呈示が実質的に行われなかった(刑事訴訟法110条違反)

「虹の戦士」号の船長は日本語を解さず、日本語のみで記された令状の中身を確認することができなかった。警察は警察の職員を “通訳” と称して連れてきたが、オランダ(ネザーランド)とニュージーランドを訳し間違えるなど、その質は不十分だった。また、グリーンピース・ジャパン事務所における捜査でも、令状は一度限り極めて短時間見せられただけであり、捜査が令状に合致しているかどうかを確認することが阻まれた。


2.領事館員や弁護士の立会いを拒否された(領事関係に関するウィーン条約と国際人権規約自由規約の違反)

船長は、オランダ船籍の「虹の戦士」号が、日本の捜査当局による不当扱いを受けないよう大使館員の立会いを求めたが、警察官によって拒否された。また、船長の依頼によって現場に駆けつけた弁護士の立会いも警察官によって拒否され、国際人権規約によりすべての人に保障されている「十分な弁護活動を受ける権利」は船長以下乗組員に対して守られなかった。

3.事件と無関係な捜査と違法な差し押さえ(憲法19条、21条の違反)

グリーンピース・ジャパンの事務所からは、会員名簿がMOにコピーされ押収された。しかし、会員名簿は、横断幕を掲げた事実とは全く関連性がなく、会員の個人的な情報をコピーして持ち去ることは、プライバシーや、思想・両親の自由を保障する憲法に違反した重大な暴挙である。また、グリーンピースはすべて個人の会員の支持によって活動を支えられた環境保護団体であり、その会員の名簿を持ち去ることは、結社の自由を侵害する悪質なものである。

さらに、MOで大量の情報をコピーしながら、押収品目録には “MO” と記され、コピーされた情報の詳細内容が記されていないことから、押収物された個々の情報が何であったのかを、確認できないという問題が生じている。また、MOは多量の情報を容易にコピーをとることが可能な媒体であり、たとえMO自体が返還されても、中の情報を警察が複写していないか、複写したものを完全消去したかどうか確認する方法がない。

一方、「虹の戦士」号からは、船に常備しておく事が義務づけられ、かつ事件とは無関係な航海記録が差し押さえられたり、また、キャンペーンのために一般に配布するためのパンフレット在庫数千部が持ち去られるなど、 “事件に関連した捜査” の域を明らかに逸脱した差し押さえがなされた。


【市民活動への不当な強制介入】

横断幕を掲げるアピール行動自体が、すでに現場写真やクライマーの供述といった直接の十分な証拠があり、船内や事務所の捜索自体が不要である。今回の捜査は、事件捜査を口実とした、当局の市民活動に対する不当な情報収集である。こうした当局の暴挙が市民活動に見えない圧力を掛け、市民参加により環境を守り汚染なき未来を求める努力を妨害している。

今回の強制捜索では、事務所ではスタッフ2人に対して警察官十余名、「虹の戦士」号では乗員訳15名に対し警察官30名ないし40名が捜査にきた。「虹の戦士」号では、正当な理由の呈示のないまま、乗員が下船を要求され、それを納得できなかった乗員が強制的に排除されさらには「制服警官をもっと呼ぶぞ」「機動隊を呼ぶぞ」などの脅迫が行われた。

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■ ダイオキシン問題に関する国際的な認識と日本の姿勢

国連環境計画(UNEP)が1999年に発表したダイオキシン排出に関する報告書によれば、日本は、ダイオキシン排出報告のあった国々の間で最大、全体の排出量の約半分近くを占めるダイオキシン大国である(添付資料2)。国内では焼却炉周辺での環境汚染や健康影響が指摘され、また焼却灰の送られている処分場周辺でも同様のことが起こっている。これらは、日本が廃棄物の最小化や再使用、有害物質を使わないなどの枠組みづくりが出来ておらず、焼却に偏ったごみ処理政策を続けていることが主要な原因といえる。こうした焼却偏重が続く限り、ダイオキシン汚染はなくならず、また、ダイオキシンなどを規制する条約策定の場においても、日本は “全廃” という目標を阻むことになるだろう *注)。

グリーンピースの横断幕はこうした現状を警告し、環境や健康の保護を求めるための、正当な主張をもった非暴力による言論活動の一環だった。そうした活動が、警察当局により不当な弾圧を受けることは、私達の健康を守り、また次世代へ安全な環境を引き継ぐため市民の活動を妨害するものに他ならず、断じて許すことはできない。*注) 1998年以降、日本を含む100ヶ国余りの国々が、UNEPのもと、ダイオキシンなどの難分解性有機汚染物質(POPs)の国際規制の条約を策定するため、交渉を続けてきた。欧州諸国など、いくつもの国が “排出を無くす” という目標に合意しているにもかかわらず、日本は終始、この目標に否定的であった。2001年に締結を目指すこの条約の、最後の交渉は今年の秋に行われる予定だが、焼却を段階的に廃止してゆくという強いイニシアチブを国内でとらない限り、日本は “排出を無くす” という目標を阻み続けることになりかねない。


添付資料

1. 準抗告請求書2通およびそれらの添付資料
2. UNEPの報告書(1999)のコピーほか、ダイオキシン発生に関する資料