「汚染なき未来へ」をスローガンに瀬戸内海ツアーを行ってきたグリーンピースは、本日兵庫県高砂市沖を、キャンペーン船「虹の戦士」号で航行し、高砂市の鐘淵化学の塩化ビニル製造関連施設の水面下の排水口のある場所を訪れた。

兵庫県にある鐘淵化学工業の排水口から、ポンプを用いて排水を工場敷地内に吹き戻しているところ。このときのアクションスタッフは、すべて日本人。
排水口の沖では、グリーンピースが今年2月、塩化ビニル生産に関連する施設からの排水についておこなった調査分析結果の概要を発表した。同時に、グリーンピースの日本人活動家6人が、その排水口からでる汚水をポンプで揚水し、塀越しに鐘淵化学の施設内へ撒き戻すアクションを行い、「排水口から食卓へ 塩化ビニル=ダイオシン Stop Toxic Discharge」と書いた横断幕を広げて、その排水口からの汚染に警告を発した。

【塩化ビニル製造施設を含む排水サンプルの分析結果】
* 添付資料1参照

瀬戸内海は、生産量ベースでは、国内全体の塩化ビニルモノマー生産施設の約7割が集中する地域である。

今年2月、グリーンピースは塩化ビニルモノマーを製造する3施設からの排水を含む排水サンプルを採取、分析した。山口県の塩ビ製造関連施設トクヤマ(徳山市)、東ソー(新南陽市)に続き、今回の発表は、兵庫県高砂市の鐘淵化学の排水口から採取したサンプルの分析結果。ここではクロロホルムとブチルヒドロキシトルエン(BHT)などが検出されている *)。

* クロロフォルム(発ガンが疑われている物質で、水に溶けやすく、残留性)。ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT):酸化防止剤として、また、プラスチックその他の石油化学製品の製造に頻繁に使われる。発がん物質が存在する場合、BHTが肝臓での異常な代謝を通じ、肝臓がんのプロモーターとして作用することを示す証拠が挙げられている。

一連の調査結果は、多くの種類の有機塩素化合物が環境に排出されていることを示していた。これらの物質には、環境中に残留しやすいもの、人や生物に有害なもの、また魚等に蓄積するものが含まれていた。これらの汚染物質は、地域の環境に影響する可能性があるだけでなく、瀬戸内海のより広い地域にも及んでいる恐れがある。

瀬戸内海はあらゆる方向から汚染が流れ込み、汚染を受けやすい繊細な海である一方で、何より、私達が海の糧を得ているところである。瀬戸内海の環境を守るために、有害物質の「排出ゼロ」という目標をもち、環境政策を立てることが今日求められている。世界の閉鎖性の海ではすでに、目標年までに有害物質の排出をゼロにするなどの政治目標を掲げ、それに向かって動き出している。(ファクトシート(POPs)参照)

【塩化ビニル製造過程からダイオキシン】

塩化ビニル製造工場の排水にダイオキシンが排出されていることは政府の報告書にも示されている。塩ビモノマー製造工場は、2000年1月から施行されたダイオキシン特別措置法の対象施設となっている。

グリーンピースが1995年に米国で行った調査によれば、塩化ビニルモノマーやその原料である二塩化エチレンを製造する工場で、高濃度のダイオキシンを含む廃棄物が発生していることが判明した。(添付資料2参照)

塩化ビニルモノマーの製造には、ダイオキシンの発生が避けられないプロセスがある。塩化ビニルといえば、焼却時のダイオキシン発生についてはよく知られているが、製造の時にも高い濃度のダイオキシンを発生させているのである。塩化ビニルモノマー製造過程で出る蒸留残さは、塩化ビニルモノマー製造プロセスの排出物の中でも最も危険な部分である。さらに、汚泥その他の廃水処理によって生じる残留物も、かなりの量の有害有機塩素を含む恐れがある。

この塩化ビニルモノマー製造時に生ずる廃棄物には、ダイオキシン類やその他様々の有機塩素化合物が含まれている。しかし、こうした廃棄物については有害物質がどれほど含まれているのか、といった公的な調査が、世界でも非常に数少ない。日本でも、環境庁や厚生省など環境や廃棄物を担当する官庁も調査を行っていない。今後、塩化ビニルモノマー、二塩化エチレン製造時の廃棄物について、独立機関による調査を行う必要がある。

鐘淵化学工業株式会社
代表取締役社長、武田正利殿
2000年5月2日
拝啓

時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
私共は、国際環境保護団体グリーンピースと申します。今年2月にグリーンピースが行いました瀬戸内海沿岸の塩ビ製造関連し節の排水分析調査において、御社の排水からは、クロロフォルム、ブチルヒドロキシトルエン[BHT]などが検出されました。
また、グリーンピース米国が1995年にアメリカの塩ビ工場の廃棄物について行いました分析調査では、塩ビ製造の原料となる塩化ビニルモノマーの製造過程においては、高濃度のダイオキシンを含む廃棄物が発生していることが判明致しました。日本でも、塩化ビニルモノマー製造施設は、ご承知の排水に関してダイオキシン特別措置法の対象施設となっております。
世界の趨勢をみますと、ダイオキシンなど難分解性の有機汚染物質発生を無くすべく、国連環境計画のもと、100カ国余りが集い、来年をめどに国際条約の締結を目指しています。
焼却時のみでなく、製造時にもダイオキシンを発生する塩化ビニルについては、すでに各分野に代替があります。難分解性有機物質による汚染を無くすために、プラスチック原料のメーカーも塩素系物質の使用や生産を脱却してゆくべき時期と考えます。
御社の施設の立地する瀬戸内海は、豊かな海の糧を育てる場であり、また瀬戸内海法によってもその環境を守るべき地域とされています。今回、私共の行いました調査からも発がん性の疑いや、残留性のハロゲン系物質が検出されており、今後この閉鎖性の海洋環境を保全する上で、こうした物質を流出し続けるべきではないと考えられます。

つきましては、

ダイオキシンである塩化ビニル製造を段階的に止め、環境により負荷のない製品への切り替えを行うこと
有害物質ことにハロゲン系物質の排出を止めること

を、要望致します。

敬具

グリーンピース・ジャパン
事務局長、志田早苗

環境庁長官、清水嘉与子殿
兵庫県知事、貝原俊民殿
2000年5月2日

塩ビモノマー製造施設からのダイオキシン発生の調査等に関する要望書

拝啓

時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
塩化ビニル(二塩化エチレン/塩化ビニルモノマー)製造業から排出されるダイオキシン類については、環境庁、通産省から、排水、排ガス、廃液焼却などの調査結果が提示されています。しかしながら、それらの結果には、二塩化エチレン/塩化ビニルモノマーの製造過程で生じる廃棄物の中に含まれるダイオキシン類についての調査が含まれていません。この、業界で「ヘビーエンド」、あるいは「釜残」と呼ばれるタール状の廃棄物については、国内でもこれまで公の情報がなく、従って、製造過程で生じる廃棄物に含まれるダイオキシンについて公的な検討もなされきていません。
グリーンピースは米国で、1994年にこの二塩化エチレン/塩化ビニルモノマー製造廃棄物のサンプルを採取し、ダイオキシン分析を行いました。この結果、それらの廃棄物には極めて高い濃度(ダイオキシン総量で761ppb~200750ppb)のダイオキシンを含まれいることが明らかになりました。高いものは、枯葉剤エージェント・オレンジ製造時の廃棄物中のダイオキシンレベルに匹敵する濃度でした。
その報告書のサマリーの日本語訳を添付させていただきましたので、ご参照ください。
報告書は、米国の二塩化エチレン/塩化ビニルモノマー工場の廃棄物に関するものですが、それら高濃度のダイオキシンを含む廃棄物を生み出している工場と同じ「オキシクロリネーション」プロセスを、日本の二塩化エチレン/塩化ビニルモノマー工場も使っています。この「オキシクロリネーション」プロセスは、塩化ビニル業界自身が「ダイオキシン類の形成に必要なすべての成分と条件を満たしている。...中略...プロセスの反応を著しく損なわずにダイオキシン類の生成を防ぐために、条件をどのように変更し得るか判断することは困難である」(ICI 1994 Report to theChief Inspector HMIP authorization AK6039)と述べ、ダイオキシン発生を認めている工程でもあります。製造時廃棄物が高濃度にダイオキシン汚染を含むことを考慮すれば、塩化ビニルは製造段階を含めて、国内のダイオキシン発生をなくすための対策の主要な対象とする必要があります。更に、ダイオキシンを高度に含むこのような廃棄物の処理方法や処理過程における汚染の排出についても詳細な調査結果はやはり提示されておりません。このため、二塩化エチレン/塩化ビニルモノマーからの製造廃棄物のダイオキシン調査、並びにその処理実態とその過程における汚染物質排出の独立機関による調査を直ちに開始するべきと考えます。
更に、二塩化エチレン/塩化ビニルモノマー施設が兵庫県高砂市、山口県新南陽市、徳山市、岡山県倉敷市、など、閉鎖性の瀬戸内海に面した地域に集まっていることを考えれば、廃棄物、排水のダイオキシンは殊更に厳しい対応が必要と考えられます。地中海など世界の閉鎖性の海ではすでに、目標年までに有害物質の排出をゼロにするなどの政治目標を掲げています。今日、有害物質汚染を出し続けないための方策こそが求められているのです。

つきましては、以下を要望致します。

二塩化エチレン/塩化ビニルモノマー製造廃棄物のダイオキシン含有と、その処理方法並びに処理における汚染の実態調査を早急に行うこと。
瀬戸内海沿岸でその環境保全を行うべき県として、瀬戸内海で有害物質の排出ゼロを、対策の目標として掲げること。

敬具

グリーンピース・ジャパン
事務局長、志田早苗│有害物質問題担当、関根彩子