【東京/アムステルダム発】

本日、国際環境保護団体グリーンピースの活動家4人(日本、カナダ、米国)は、横浜港で米軍のPCB廃棄物を載せたコンテナ輸送船Wanhe号に乗り込み、米国がこのPCB廃棄物を環境汚染を招かずに処理する責任をとるよう要請した。この船には、在日米軍が排出したPCB廃棄物の入ったコンテナが、14個積み込まれている。

Wanhe号に乗り込んだ4人の女性活動家は、「PCB これはアメリカのゴミ:USA-Toxic Criminal」と書いた横断幕を広げた。

彼女らはチェーンと手錠を持参して船に乗り込み、各自強制排除されないように体を船体などにつなぎ止めて抗議行動を続けました。小さい幕には、「PCBs」と書かれ、ドクロのマークを書き込んであります。

Wanhe号に積み込まれた危険なPCB*1 廃棄物は、カナダで荷揚げを拒否され、米国シアトルでも港湾労働者の荷揚げ拒否に遭い、米国の環境保護団体が訴訟さえ起こそうとした末、日本へ送還され、今まさ到着しようとしている。

この船は4月7日にシアトルを発ち、廃棄物のコンテナを積んだまま次の寄港地バンクーバーへ向かった。そしてカナダ当局がすでにそのコンテナを荷揚げすることを否定していたため、Wanhe号はそのコンテナを積んだまま4月9日にバンクーバーを発った。*2

この廃棄物は日本に送還された後、一ヶ月以内にいまのところ特定されていない送り先へ向けて再輸出されることになる。

米国国防省は、実状を明らかにせずにこの廃棄物を処理しようとしたために、このような混乱を引き起こした。この輸送は焼却のために送られた先の米国やカナダで拒否された。環境上問題のない無害化という解決策を提示せずに、米国がそれを日本に送り返すのは無責任であるとグリーンピースは主張している。

焼却に代わる確実な処理技術は、すでに実用化されており、例えばオーストラリアのシドニー・オリンピックの会場が隣接しているホームブッシュ湾に投棄された有害廃棄物の除去のために採用されている。しかしながら、こうした技術の運用を始める前には、適切にコントロールされることが保証され、地域社会の意思が十分に反映されることが不可欠である。*3

この廃棄物は、地域社会にいかなる環境被害も与えることなく、米国の責任において米国が処理するべきものである。日本政府は米国政府に対し、この廃棄物を環境上そして社会的に責任あるやりかたで処理するよう、要請すべきである。

米国政府はこのPCB廃棄物を在日米軍の相模原補給廠に送り返した後、一ヶ月以内にどこかへ再輸出すると17日付けで発表したが、米国政府が環境汚染を引き起こさずに処理することを確約しない限り、こうした「PCBピンポン」は、決して解決をみることはないだろう。

*1:PCB(ポリ塩化ビフェニール)は極めて有毒な化学物質で、その製造は世界的に禁止されてきた(現在、PCBを生産能力を有している唯一の国はロシアである)。PCBsは、現在100ヶ国以上が集まって国連環境計画のもとで交渉が進められている難分解性有機汚染物質(POPs)国際規制条約 で、最優先対策物質として、挙げられている12物質のうちの一つである。PCB廃棄物の焼却はダイオキシンやその他の有害物質の排出を引き起こす。現在も大量のPCBがトランス等の電気機器に使用されている。グリーンピースの報告書「難分解性有機汚染物質の分解技術の評価基準」には、PCBなどのPOPsの処理技術に関するクライテリアが概説してある。この報告書は以下のサイトで入手可能。

http://www.greenpeace.org/~toxics/reports/alttech2.pdf
または、
http://www.who.int/ifcs/isg3/d98-17b.htm

仮訳はグリーンピース・ジャパン(phone 03-5351-5400)へお問合せください。

*2:この廃棄物は、処理契約を結んでいたトランス・ナショナル・インダストリーズ(TCI)社(オンタリオ州カークランド)が99年12月にオンタリオ州から輸入許可を却下されていたため、カナダへの入港を拒否された。TCIは、廃棄物の金属部分からPCBを溶剤で洗い落すプロセスを採用している。廃棄物のうちPCBの部分は、カナダのアルバータ州スワンヒルズにあるボーヴァー有害廃棄物焼却炉で焼却する計画になっていた。これまでこのスワンヒルズの焼却炉でPCBやその他の有害廃棄物を焼却してきた結果、当局がその地域の先住民の人々に対して、その焼却炉から半径30Km以内に生息する生物を食用としないよう勧告するという事態にまでなっている。

*3:ホームブッシュ湾の有害物質汚染の除去に関する詳細は、以下のサイトでアクセス可能
http://www.greenpeace.org.au/info/archives/olympics/reports/300_days/toxic.html
http://www.greenpeace.org.au/info/archives/toxic/dioxin/NSW.html

WANHE号に乗り込んだ4人はいずれも女性。カナダ人2名、アメリカ人1名、日本人1名で、カナダ人はこの抗議行動のために来日したクライマー。日本人とアメリカ人は、現在瀬戸内で展開中の「汚染なき未来へ」キャンペーンに参加している、「虹の戦士」号乗組員で、この行動のために急遽横浜に派遣しました。

洋上行動は、8時ごろからはじめ、WANHE号が着岸埠頭に近づいてくるのにあわせて、前方で抗議行動を行いました。ゴムボートは2隻。それぞれ2名ずつ乗り、虹の戦士号の乗組員と、グリーンピース・ジャパンのスタッフ(女性)がペアになって乗り込んでいました。

解 説

たらいまわしの米国PCB廃棄物

3月末に在日米軍相模補給廠からカナダへ輸出されたPCB廃棄物は、処理契約を結んでいたトランス・ナショナル・インダストリーズ(TCI)社(カナダ、オンタリオ州カークランド)が99年12月にオンタリオ州から輸入許可を取り消されていたため、カナダへの入港を拒否された。バンクーバーの港湾局は「この積み荷の最終目的地が不明確である」として入港を拒否した(バンクーバー港湾局の4月4日報道発表資料から)。

TCIは、廃棄物の金属部分からPCBを溶剤で洗い落すプロセスを採用している。廃棄物のうちPCBの部分は、カナダのアルバータ州スワンヒルズにあるボーヴァー有害廃棄物焼却炉で焼却する計画になっていた。これまでこのスワンヒルズの焼却炉でPCBやその他の有害廃棄物を焼却してきた結果、当局がその地域の先住民の人々に対して、その焼却炉から半径30Km以内に生息する生物を食用としないよう勧告するという事態にまでなっている。

米国環境保護庁は、このTCI社に対して、合法的に処理できるかどうか確定するまで最長30日間保留するため、ワシントン州シアトルで荷揚げすることを承認した。しかしながら、米国の国内法(化学物質管理法-TSCA-の6章 (e)) のもとでは、米国外で製造されたPCBを米国へ輸入することを禁じており、第三国即ち、廃棄物を受け入れてくれる他の国を探さなければならなくなっている。

このため米国の環境保護団体や労組の反対により、このPCB廃棄物はシアトルで荷揚げされることなく、現在日本へ送り返されている。

門前払いの不法輸出廃棄物

有害廃棄物の越境移動に関するバーゼル条約の下では、締約国は、有害廃棄物の輸出国は輸入国に対して輸出を事前通告しなければならない。今回の輸出では、TCI社と米国国防省がこの廃棄物のPCB含有が50ppm以下であると主張したため、この通告はなされなかった。 米国国防省が議会へ提出した報告書では、この廃棄物は検査されていないことになっていたにもかかわらず、である。TCI社は、検査データがあると主張しているが、米国国防省の規制により、同社はこれを発表できないという。

さらに、このPCB廃棄物は、ダイオキシン類であるフラン(ポリ塩化ジベンゾフラン)も含んでいる可能性があり、フラン汚染がほぼ確実といえる。ダイオキシン類はその汚染レベルに関わらず、バーゼル条約の対象廃棄物となる。なぜなら、ppm以下の例外というものがダイオキシン類には設けられていないからである。したがって、カナダ政府は、カナダへの輸出のまえに、それを事前告知されていなければならなかった。

グリーンピースの主張
焼却処理を行わないこと:この廃棄物がどこで処理されることになろうとも、焼却という手段を用いず、 閉鎖系で無害化処理する必要がある。
汚染者負担の原則:廃棄物処理や汚染を浄化するための費用は、全額、汚染者、排出者が負担すること。今回のPCB廃棄物について、汚染者、排出者は、アメリカ軍である。
責任:このPCB廃棄物は米軍のものであり、米軍から発生し、排出されたものであり、これは米国の問題である。 焼却ではない技術を用いて
地域社会の権利の保証:いかなる廃棄物処理においても、地域社会がそれを監視し、意思決定に参加できるよう保証されていなければならない。 また、廃棄物処理が地域環境に害を及ぼさないよう厳しい規制のもとにおかれなければならない。