国際環境保護団体グリーンピース・ジャパン、原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、日本消費者連盟などの環境保護、反核・反原発、消費者団体は、3月13日に、「原子力規制行政 市民の提言」を発表した。
臨界事故以来、これらの市民団体代表らは、日本弁護士連合会公害対策・環境保全委員会原子力エネルギー部会部会長の海渡雄一さんの協力を得て、提言づくりへの協議を重ねてきた。
提言は、国会への提出間近とされる民主党による「原子力安全規制委員会設置法案」にも言及したもので、民主党案と同じく、通産省、科学技術庁などの原子力開発・運営の推進省庁からの分離・独立を基本としている。
事故が繰返され、また、大事故が増えている現状から、これらの市民団体は、原子力規制行政の独立強化のため、協力できる政党が力を合わせて、原子力安全行政の独立を図るための法案を国会に提出し、これを成立させてほしいとしている。

提言の要旨は、以下の通り。

規制機関は、どの省庁からも独立させ、許認可・規制権限などを持つ。
規制機関は、技術者を相当数そろえ、相当数の職員を持つ。
規制機関は、地方事務所を持つ。
地方自治体の、規制行政への関与を強化する。

提言の発表会見では、20余年の歴史を持つ米国のNGO(非政府組織)、原子力情報資料センター(NIRS)で、米国の原発すべてを監視するプロジェクトの責任者をつとめるポール・ガンターさんが提言の支持を表明した。
ガンターさんは、米国原子力規制委員会(NRC)の理想とする原則は、独立性・公開性・有効性・一貫性・信頼性だが、こうした理想を実現するためには市民参加が欠かせないと述べた。

また、独立の規制機関が存在する米国も、電力自由化のために原子力発電所の運営が効率重視に傾いている現状を、1996年のミルストン原発(コネチカット)事件を例にとって説明した。2人の労働者が、ミルストン原発で、効率を上げるために、原子炉停止後、250時間たたなければ、労働者が中に入って燃料交換ができないことになっていたのにもかかわらず、60時間たった段階で、労働者を中に入れていたことを、NRCに告発した。これは、労働者が、NRCを独立の機関として信頼していたからであるが、実は、NRCはこの事を知っていたという。この事件の後、NRCの改革が始まった。

日本も3月からの電力自由化をふまえ、米国から学ぶべきことも多い。ガンターさんはこの後、14日の午後3時半より国会議員向け学習会を参議院議員会館会議室で、また、午後6時半より一般向け学習会を総評会館で行なう。

JCO臨界事故を繰り返さないために
2000年3月13日

原子力規制行政「市民の提言」原子力規制行政の独立を求めて

原子力安全規制行政研究会
参加団体:グリーンピース・ジャパン 、原子力資料情報室、原水爆禁止日本国民会議、日本消費者連盟、ストップ・ザ・もんじゅ東京、大地を守る会、たんぽぽ舎、非核自治体ネットワーク、婦人民主クラブ、他

はじめに

昨年9月のJCO臨界事故は日本の原子力安全行政のあり方を鋭く問い直しています。もんじゅ事故、動燃再処理工場事故、敦賀二号炉事故など、度重なる原子力施設の重大事故に国民の原子力安全行政への不信は頂点に達しています。遅ればせながら、政府も原子力安全行政を強化するとしています。しかし、推進を行う機関の中に置かれた安全規制機関は結果的には形式的でなれ合いの安全審査しかできなかったことは、これらの事故に示されています。単なる量的な拡大や精神論では実効性のある安全性の確保は到底望めません。

今、民主党は原子力安全行政を推進官庁から切り離し、原子力安全規制委員会に統合するという法制度設立のため具体的な法案を準備していると伝えられます。同様の提案は共産党、社会民主党などの他の野党からもなされています。

このような時に当たって、私たち市民運動は、原子力安全行政の独立強化のため、協力できる政党が力を合わせて、原子力安全行政の独立を図るための法案を国会に提出し、これを成立させることを願っています。以下、民主党が検討中の案に即して、いくつかの提言をさせていただきます。

提言要旨

● 規制機関は、どの省庁からも独立させ、許認可・規制権限などを持つ。

● 規制機関は、技術者を相当数そろえ、相当数の職員を持つ。

● 規制機関は、地方事務所を持つ。

● 地方自治体の、規制行政への関与を強化する。

第1 規制機関の法的性格について

原子力安全委員会を8条委員会(諮問機関)から権限のある3条委員会へ
現在の原子力安全委員会は諮問機関だが、それを公正取引委員会のように、国会行政組織法3条の委員会とする。どの省庁からも独立させ、米国原子力規制委員会(NRC)のような、規制権限まで付与された独立行政委員会とする。

■規制と推進の効果的な分離は原子力安全条約の要請 我が国が1996年に批准した原子力安全条約の8条は「1 締約国は、前条に定める法令上の枠組みを実施することを任務とする規制機関を設立し又は指定するものとし、当該機関に対し、その任務を遂行するための適当な権限、財源及び人的資源を与える。2 締約国は、規制機関の任務と原子力の利用又は促進に関することをつかさどるその他の機関又は組織の任務との間の効果的な分離を確保するため、適当な措置をとる。」と定めている。

* 民主党の検討中の案では、委員会は3条委員会に格上げされ、規制権限は安全性に関する部分は委員会に移譲され、原子力の利用企画に関する権限だけが経済産業省などの省庁に留保されている。この点は、規制権限を推進機関から独立させるという目的を基本的に達成しており、実現可能性もあるとして、基本的に支持できるものと考える。

第2 規制機関の権限について

規制機関の独立性を発揮させるため、次のような強力な権限を保障するべきである。

1. 施設に対する事前の警告なしの立ち入り調査権
各地の自治体の原子力安全協定にも例あり。このような権限はなれ合いの安全審査を回避するために最も基本的な権限である。また、現地に赴いて調査することは基本である。

2. 関係行政機関・規制対象施設の備え付けの運転記録・その他の資料の要求・閲覧権

3. 勧告・助言
関係行政機関、および規制対象の施設の所有者に対しての勧告・助言。

* 民主党の検討中の案では、委員の職権行使の独立(民主党案5条)、委員の身分保障と、非行等の際の罷免(民主党案9,10条)、関係行政機関に対する資料提出要求(民主党案22条)、国会に対する報告(民主党案第25条)について定めており、これらの点について基本的に賛成できる。しかし、それに加えて上記のような立ち入り調査権・施設の資料閲覧権などを加え、より効果的な規制を行なえるようにするべきである。

第3 人的、物的資源について

1. 自然科学系の専門家・技術者を相当数そろえ、監督・審査能力の充実をはかる。
少なくとも数百人規模のスタッフが望まれる。(有能な人材は、すでに日本原子力研究所などに存在している。)
2. きめ細かい安全審査、現地の点検のために地方事務所を設置する。

* 民主党の検討中の案では、事務局機能(民主党案26条)について、委員会に事務局を置くものとする、としているが、もう少し具体的に事務局の人的な能力を強化すること、とりわけ、自然科学系の専門スタッフを相当数そろえることを法文の中に盛り込んで表現できないだろうかと考える。地方事務所の設置(民主党案27条)については賛成である。

第4 地方自治体の関与について
原子力施設のある地方自治体の原子力規制行政を強化するため、市町村における専門家の採用を奨励すること、並びに、原子力規制機関の地方事務所と地方自治体が協力して原子力規制行政を進める。

第5 見直し規定について
3年ごとにその後の状況をレビューして見直しを行う。

第6 重大事故への規制について
ドイツ原子力法の最近の改正に倣って、重大事故の場合にも敷地外に放射能を漏洩させてはならないことを原子炉等規制法に明記する。

参考:欧米の原子力規制行政
アメリカ:利用推進機関としてのエネルギー省とは独立している規制当局として原子力規制委員会(NRC)が存在し、委員は5人、職員は約3000人。

イギリス:利用推進機関は貿易産業省。許認可・規制は、環境・運輸・地域省内保健安全執行部(HSE)原子力安全理事会(NSD)原子力施設検査局(NII)が行う。NIIのスタッフは160人程だが、HSE全体では約3000人であり、専門性により部門相互に補完し合う仕組み。

ドイツ:歴史的には連邦政府が利用促進の役割を担ってきた。州政府が具体的審査をしている。実際の審査は、民間の技術検査協会(TUV)が担当。

原子力安全規制行政研究会 連絡先
グリーンピース・ジャパン 03-5351-5400/原子力資料情報室 03-5330-9520/原水爆禁止日本国民会議 03-5289-8224

* 原子力安全規制行政研究会は、JCO臨界事故を受けて、日本の原子力安全規制行政のあり方へを研究するために、NGO、海渡雄一弁護士の呼びかけで結成され、これまでに学習会などを行なっている。