英国原子力施設検査局(NII)が高浜原発3、4号機用プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料の英国核燃料会社(BNFL)によるデータねつ造問題に関する報告書をこの18日英時間午前10:30(日本時間同日午後7:30)に記者発表する。発表後まもなく原子力安全理事会のホームページで公開される予定。

アドレス:http://www.hse.gov.uk/nsd/nsdhome.htm


英紙「インデペンデント」は17日、NII報告が、ねつ造は、現在明らかになっているものより、より大きなスケールで、また、より長期間にわたって行われていたことを明らかにしており、英国の大臣は同社の最高経営責任者の解雇を要求していると報じた。ねつ造は1996年からひそかに行われており、BNFLにはねつ造を許す管理体質があったとしている。同紙は、今回のNII報告は、「BNFL一部民営化の希望にとっては、死者を弔う鐘の音だ」と表現している。

なお、NIIは明らかに内容を一部インデペンデントに語ったようだが、来日時には高浜原発地元の市民団体にも内容を漏らさなかった。また、PAニュースは報告書が40ページだと報じた。

NIIはたしかに、原子力の推進省である貿易産業省から独立した規制機関だが、環境・運輸・地域省のもとに設置されており、同省と貿易産業省との力関係は歴然としている。報告書を検討する前提として、そのことを頭に入れておく必要もあると考える。

以下は、NII報告書を検討する際のチェックリストである。
(日本の環境保護団体グリーン・アクションとの協力の元に作成)



Q1:すべての情報は公開されたのか? 通産省の責任は?

BNFLは、8月20日頃にねつ造について気づいたが、英紙「インデペンデント」が9月14日に報道してから初めて、公的にMOX燃料のデータねつ造を認めた。その後、日本で情報の一部が公表され、「疑惑の燃料は日本に」というNIIから日本政府への書簡(11月8日付)が公表された12月15日まで、日本に送られた分に関しては、「ねつ造は無い」と主張し続けていた。

日本政府(通産省)が、NIIの書簡の内容をすみやかに公表し、対応しなかった責任については言及されているのか?

NIIの報告書では、

1:すべての品質管理保証データ(すべてのロットのすべてのペレットの上中下外径、および、抜き取り検査によるペレットの上中下外径データなど)が、ディスクの形で公開されていなければならない。そうすることによって、第三者による検証ができる。

2:BNFLが、検証機関であるロイズ・レジスター・クオリティー・アシュアランスに提出した報告書の全貌が明らかにされていなければならない。

3:BNFL、NII、関電、および英国政府、日本政府の間でかわされた、ねつ造事件に関するすべてのメモが明らかにされていなければならない。


Q2:ねつ造事件は、労働者のデータ引き写しという「怠慢」以上のものと認めているか?

日本で公開されたデータと、グリーン・アクションと美浜の会ら市民団体による分析は、BNFLが現在までに認めているねつ造の期間よりも長い期間にわたってねつ造がなされていたこと、および、単なるコピーというねつ造の仕方以外のパターンがあったことを示している。つまり、単なる「怠慢」によるコピーではなく、MOX燃料ペレットのサイズを、合格ラインに「押し込む」ためになされたという、「品質管理偽装工作」の疑いである。

ねつ造無しでは、公開された数値の分布になる確率は、0.1%にも満たないはずなのである。


Q3:なぜ、NIIはすべてのねつ造を発見できなかったのか?

NIIが昨年11月に日本政府にねつ造の疑いを指摘したロットはP783であった。つまり、その時点では他のロット(例えばP814)についてのねつ造を発見することができなかったのである。

グリーン・アクションらはその時点で他のロットについてのねつ造の疑いを指摘していた。そして、それより多くのロットについて、まだ、ねつ造がわかっていない可能性もある。なぜ、NIIがねつ造を見落としていたのかについての説明はなされていないままだ。


Q4:NIIは抜き取り検査の品質管理の要であることを認めているか?

BNFLはこれまで、よく、外径計測の抜き取り検査は、全数検査をしているから、無くてもいいものであると繰り返し主張してきた。しかし、品質管理上、そんなことは有り得ない。逆に東京電力福島1-3原発用のベルゴニュークリア社の燃料は、抜き取り検査だけで、全数検査は行われていないのである。

(ベルゴニュークリア社のMOX燃料加工工場のラインは2種類あり、一つは、全数計測可能、もう一つは、抜き取り計測しかしないラインとなっている。そして、全数の計測は福島原発1-3用燃料の場合全ペレットの60%しか行われていない。さらに、柏崎刈羽原発3号機用のペレットに関しては100%全数計測が行われている。しかし、双方とも、記録が残っているかどうかは通産省さえ把握していない)


Q5:セラフィールドで製造された、他のMOX燃料のデータについても調査したか?

BNFLで加工されたMOX燃料集合体のうち、3体に、燃料損傷が起こっていたことが、明らかになっている(1996年にスイスのベズナウ第1原発に装荷されたもので、97年、燃料の損傷で抜き取られ、98年に陸上および海上輸送で英国に送り返されている) この燃料についての品質保証データは公開されていない。
NIIはこの燃料に関しても、ねつ造があったのかどうかなどの調査は行なったのだろうか? そして、データおよび関連書類は公開されるのだろうか?

英国議会で、チェイター議員は貿易産業大臣に対し、スイスへのMOX燃料に関してどう報告を得ているかを質問した。リッデル大臣は「日本向けのMOX燃料のデータねつ造」が明らかになったことから、BNFLは、スイス向けMOX燃料の品質データを調査し、その結果、1997年2月に供給された一ロットの燃料ペレットのデータについて、逸脱(anomaly)があったことが確認されたと答えている。しかし、BNFLと顧客はその燃料が、必要な仕様を満たしたものと結論づけたと答えている(2000年2月14日公式報告)。
また、1995年11月に供給されたBNFLのスイス向け燃料は、1997年9月の定期点検で破損が見つかり、1998年3月にイギリスへ返送されたのである(2000年1月25日公式報告)。

いったい、これまでにどれほどの不正があったのだろうか? そして、その中に、日本向け燃料はどれほどあるのだろうか?


Q6:NIIは、本当に、この燃料の安全性を保証しうるのか?

NIIは、繰り返し、BNFLのMOX燃料は安全であると述べてきた。しかし、NIIは法的には、英国の核施設の安全性に責任を負っているものの、他国で使用中の燃料による核事故には、責任を負っていないのである。

英国では、MOX燃料は使用されていない。そのため、NIIには、その使用を規制したという経験もないのである。核燃料の品質は明らかに原子炉のパフォーマンスとともに、安全性を左右するものである。

MOX燃料は、プルトニウムを含むという新しいタイプの燃料であり、重大事故が起これば、その結果は通常のウラン燃料の場合よりもはるかに深刻さが増すのである。BNFLと顧客との間で合意されたMOX燃料の品質基準は、独立した安全審査機関による検査を受けていない。
国際標準化機構(ISO)によれば、プルトニウムはウラン燃料と違い、「スタンダード・プロダクト」ではない。そのため、合意された国際的品質保証規格が設定されていないのである。


Q7:NIIは、ねつ造事件は、解決したとするのか?

MOX燃料に関わる問題は、BNFLがデータねつ造を止めたからといって解決はしない。BNFLは、労働者の再教育、懲戒、MOX試験施設(NDF)の改善を行うと宣言している。それは、ロイズ・レジスター・クオリティ・アシュアランスにより認証を受けたISO9002を取り消されないためにしなければならないことなのである。
しかし、もし、BNFLが施設の管理をきちんとし始めたとしても、MOX燃料ペレットの抜き取り率やその他の仕様の設定に関して、相当BNFL自身が関与しており、客観的に燃料の安全性を保証するものでは有り得ない。


Q8.NIIは、なぜ、BNFLがMOX燃料を製造しているのかと問うているか?

MOX燃料はあらゆる意味で、ウラン燃料より危険である。それは、プルトニウムが含まれているからである。そのため、英国から日本への輸送に際しても核拡散上の問題がつきまとう。
また、セラフィールドでの再処理は、プルトニウムの保有量を増やすだけでなく、核のゴミも確実に増やしているのである。


* グリーンピースはブリーフィング・ペーパー「MOX燃料成型加工の品質管理は不十分である」(1999年9月21日発行)で、MOX燃料の適切な品質管理は、現実的には不可能としている。つまり、ねつ造が行われていないMOX燃料であっても、危険であると主張している。


[添付資料]