【タイ、サムイ島発】

昨年12月から「汚染無きアジア」を目指してキャンペーンを展開しているグリーンピースの虹の戦士号は、現在タイをツアー中で、本日サムイ島に寄港している。

タイの東海岸にある観光地、サムイ島では、日本の企業NKKによって建設された、高価で大型すぎる焼却炉が、処理能力(最大生産力)以下で操業している。(焼却炉は、燃やし始めと消す際に、ダイオキシンが発生しやすい温度帯を経過する。そのため、フル稼働で常に高温に保つことが、ダイオキシン発生を抑える方法とされている)

この、焼却炉をフル稼動するために、サムイ島がタイの他の地域、または海外から廃棄物を受入・輸入するよう、圧力をかけられる恐れがあると、グリーンピースはサムイ島民に警告を発している。また、グリーンピースは、タイのゴミ問題に対して、汚染をもたらす不適切な技術を押し付ける日本政府の開発援助機関を強く非難してもいる。

政府の予測では、サムイ島では一日に72トン(1)のゴミが出ると見積もられている。それに対して、島の焼却炉はその2倍近い一日140トンを燃やせる仕様になっている。しかし、実際のところサムイ島のゴミの量はもっと少なく、現在は10日間に1回、2炉あるうちの1炉を運転させているにすぎない。

「焼却炉を運営しているパルコン・モンタンネイ社は、”燃やせば燃やすほどもうかる” という方針なのだ。サムイ島の焼却炉に関しては、タイ政府とタイの納税者が負担している建設費や維持費が膨大な額になっている。
この焼却炉は、サムイ島のゴミ問題の解決策にならないばかりか、むしろ現在以上のゴミの排出、あるいはゴミの輸入の必要性を生じさせ、ゴミや有害物質の問題を悪化させているだけである」と、
タイで活動するグリーンピースの有害物質問題担当、タラ・ブアカムスリは指摘している。

サムイ島の焼却炉の設計と資本金は、共に日本からきたものである。パルコン社とNKK社が参加したタイと日本の共同事業として、1997年に5.01億バーツ(約14億2000万円)で建設された。焼却炉の建設費は、日本の海外経済協力基金からタイの内務省公共事業局への無償援助によるものである。

焼却炉の年間運営費は、5000万バーツ(130万米ドル=約1億3650万円)になっており、一日の費用を計算すると、納税者は毎日、140,449バーツ(3795米ドル=約40万円)という高額をパルコン社に払っていることになる。

「日本国内では大量のごみ焼却炉によるダイオキシン汚染が重大な問題を引き起こしており、ごみの焼却処分を削減するよう求める声が大きくなっているにもかかわらず、その日本が、問題の焼却炉のような汚染排出技術を海外に輸出している。これは、日本の廃棄物を輸出する可能性を考えていなければ、なぜこれほども過剰な処理能力をもつ焼却炉を建てる必要があるだろうか」とブアカムスリは言う。

グリーンピースがサムイ島で行ったサンプリング調査では、施設の近くに投棄された灰から、高い濃度の有害重金属が発見された。検出された鉛は、バックグラウンドの120倍になっている他、カドミウムもバックグラウンドの80倍までのぼっていることが分かった。(2)

「グリーンピースは、タイ政府に対し、焼却炉新設用の海外援助を拒否し、そして焼却炉の新設事業を凍結することを要求している。焼却の代りに廃棄物排出の防止、資源分別、堆肥やリサイクルに投資する必要がある。焼却は、ただ単に再生可能な材料を有害廃棄物に変化させる高価な技術にすぎない」とブアカムスリがいっている。

6日以降にバンコクに寄港し、その後フィリピン、香港を経て4月上旬には日本で1カ月のツアーを予定している。

【備 考】

(1)1993年に土木事業局が発行した実行可能性レポートによると、2000年のサムイ島のゴミ排出量の予測は一日に72トンになっている(住民から42トン、観光客から25トン)。これは焼却炉の予測した最大生産量の約半分にしかならない。2011年になっても、全島のゴミ排出量は一日に114トンに予測され、焼却炉の最大生産量よりまだ少ない。

(2)焼却の際に出されるダイオキシンなどの有害物質の影響が日本国内で懸念されているのにかかわらず、焼却炉を製造する日本企業が海外に向けて売り続けている。日立造船、タクマ、三菱重工などがアジアの国々に有益な市場を持っている。焼却炉の入札で契約を取るために、日本政府が運営する開発援助事業が不可欠である。

外国の焼却炉の契約を取るために最もマーケティングに力をいれているのが、日本政府、日本輸出入銀行(JEXIM)、海外経済協力基金(OECF)、国際協力事業団(JICA)などの日本政府からの借款、助成金と援助事業が外国の顧客を探している日本企業に大きな影響力を与える。海外経済協力基金の開発援助と関連し、発展途上国から依頼があった場合、JICAがセミナー、調査や技術助力を企画する。その結果日本の焼却炉メーカーの市場が広がる。

焼却に関する日本政府の政策は根本的に矛盾している。国内では、焼却炉と焼却炉から出る有害物質に対して厳しく規制しているのにかかわらず、海外援助機関がアジアでの焼却炉建設を積極的に推進している。

(3)グリーンピースが採取した焼却炉の飛灰に、通常より高い濃度の鉛とカドミウムが検出されたことから、燃やされているものの鉛とカドミウムの含有量が相当なものであることが分かった。飛灰から検出された鉛は1020mg/kg(1020ppm)になっていた。カドミウムは10~30mg/kg(10~30ppm)という濃度になったいた。

その他、水銀、銅、クロムなどの重金属や、非塩素化炭化水素とその他の有機化学物質の混合体も、サンプルから検出された。

鉛とカドミウムは神経毒として知られている。鉛は、低い濃度でも子供の知的及び行動的な成長に影響を与え、カドミウムは発ガン性物質である。焼却炉の煙突から、こうした重金属やダイオキシン類や酸性ガスを含む発ガン性物質や有害化学物質が排出されている。一般廃棄物、有害廃棄物と医療廃棄物の焼却は、極めて有害なダイオキシンの既知の排出源の中で最大を占める。