国際環境保護団体グリーンピースは、浮氷群の後退の激しい北極地方の調査を7月31日終えた。3週間におよぶ調査で、気候変動による北極の野生生物や生態系への影響を調べ、セイウチの個体数減少などを確認した。

グリーンピースの調査船アークティック・サンライズ号には日本人を含む10か国(英国、米国、オランダ、デンマーク、ロジア、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、スペイン)からのグリーンピースの船員と科学者が乗船した。アラスカとロシアにはさまれたチュクチ海の浮氷群に沿って航海した。
目的は北極の浮氷群を住処とするセイウチ、北極クマ、黒ウミガラスの年齢構成と固体数の計測であった。

調査メンバーの責任者アラスカ大学のブランドン・ケリー博士は
「現時点での調査結果を見ると、セイウチの固体数は減少傾向にあるといえるだろう」と結論づけた。

セイウチの子供の固体数は去年より増加しているものの、子どもの生存率はこの数年減少している。これは、総固体数が減少していることを示している。
減少の速度を特定するに十分なデータは今のところ無いが、地球温暖化の影響と言われている浮氷群の溶解による後退や彼らのえさの変動が、セイウチの生存を危うくしているのである。

ブランドン・ケリー博士が率いる調査チームは、海洋生態調査グループのジェナディ・スミルノブ博士、アラスカ大学のロリー・クォーケンブッシュ上級調査官、アラスカエスキモーセイウチ委員会のクレランス・ワギリ氏など9人の科学者。太平洋のセイウチが主な調査の対象で、この3週間の航海で、5000頭をケリー博士らが開発した独自の方法で観測した。

北極西地方は、地球上の他の地域と比べ、3~5倍の速さで温暖化が進んでおり、浮氷群の溶解は、最も顕著な温暖化現象である。1999年の春は、浮氷群の体積は大きかったものの7月になるとチュクチ海の氷が猛スピードで溶け出した。
3週間の航海の観測で、ある浮氷群では、300マイルの氷塊線の後退が見られた。

セイウチ、北極クマ、アザラシ、海鳥、その他北極地方特有の動物の生存は氷に依存しており浮氷群の変化はただちに彼らの生活に影響を及ぼしている。またセイウチは、アラスカ地方ベーリング海とチュクチ海に住む人々の主要タンパク源である。

今回の航海で今までは考えられなかった出来事が目撃された。北極クマが雄のセイウチを襲い氷上に引きずり上げていたのだ。
非常に厚くて丈夫な皮をもつ、体長も体重も北極クマの2倍はある大人のセイウチが、北極クマに襲われることは常識では考えられないことである。

今回の航海中に主な北極クマの生息地のひとつであるヘラルド島も調査された。後退と生態系の変化による影響でえさの確保が難しくなってきている。

「温暖化の兆候は私達の回りにすでに現れてきている。気候変動は人々の暮らしのなかで、化石燃料を燃やすことが原因となっている。環境中に温室効果ガスを放出するのを止め、化石燃料の使用を段階的に廃止し、太陽光や風力など代替可能エネルギーに支持していく時が来ている」と
アークティック・サンライズ号に乗船しているグリーンピースのスティーブ・ソイヤーは述べている。