グリーンピース・ジャパンは木村青森県知事に対し、本日要望書を送った(ファックスを送った後、郵送)。
内容は、グリーンピースの入手したBNFL(英国核燃料公社)の資料を元に、今後大量の核廃棄物輸送が予定されていることを暴露したものである。そして大量の核廃棄物の行き先は青森県六ヶ所村である。その現実を踏まえ、政府に対し、核廃棄物に関する政策を明確にするよう求めるべき、という申し入れである。

BNFLの資料から読み取ると、再処理委託元は、BNFLとの間で高レベル放射性廃棄物の返還に加えて、低・中レベル廃棄物の返還輸送を今後5,000回も行なわなければならない。そして、そのうちの約半分近くは実に日本への輸送である。これは昨年、英国政府がNirex(英国放射性廃棄物処分公社)の施設の建設が計画を放棄したために発生したことである。

これまで英国は、再処理から発生する廃棄物のうち低レベルと中レベルの放射性廃棄物については、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体に換算して返還し、中・低レベル廃棄物は、英国内で貯蔵するという政策をとっていた。つまり中レベル、低レベルの放射性廃棄物の放射能量に相当する高レベル廃棄物を委託元に返すというわけである。これは「キュリー交換」や「核廃棄物の等価交換」と呼ばれている。

中レベル放射性廃棄物というのは日本ではなじみがないが、これは日本のTRU(超ウラン元素)廃棄物に相当する。長寿命の放射能を多く含み、低レベル放射性廃棄物のようにドラム缶で埋め捨てということはできない。高レベル放射性廃棄物並の地層処分が必要といわれているが、日本ではまだ対策は決定していない。

状況はフランスのCOGEMA(仏国核燃料公社)でも同様で、青森県は知らないうちに大変な難題を抱え込んでいる。木村知事はこの現実をしっかりと認識した上で、青森県を核廃棄物に埋もれた県にしないために、一時的ではなく長期的な拒否を貫くべきである。



再処理と核廃棄物の輸送についての要望書

青森県知事、木村守男殿

前略

本日のパシフィック・スワン号の接岸許可、および高レベル放射性廃棄物の搬入という事態に対し、知事の心中にどのような思いを巡らされているかご推察いたします。知事に対し、グリーンピース・ジャパンはきわめて緊急な案件として「欧州における日本の再処理廃棄物の現状」と「今後の六ヶ所村への核廃棄物輸送」との関わりについて、この要望書をお送りします。

すでにご承知のことと存じますが、日本の電力会社は仏国にあるCOGEMA(仏国核燃料公社)の再処理施設と英国のセラフィールドにあるBNFL(英国核燃料公社)の再処理施設で、7,120トンの使用済み核燃料の再処理をする契約を結んでおります。このうち2,673トンは英国で処理されることになっており、この使用済み核燃料の再処理からは日本に返還されねばならない様々なレベルの放射性廃棄物が発生します。

英国では、英国が日本も含め契約している再処理により発生する放射性廃棄物の量が以下のように分類されています。

高レベル放射性廃棄物:470立方m
中レベル放射性廃棄物:5,247立方m
低レベル放射性廃棄物:18,058立方m
これらを容器に入れた場合、体積はさらに大きなものとなります。そのうち日本に返還されるべき核廃棄物の体積は次のようになります。

高レベル放射性廃棄物:190立方m
中レベル放射性廃棄物:6,248立方m
低レベル放射性廃棄物:6,739立方m
英国の政策(放射性廃棄物処分の査定:1995年7月)では、海外再処理から発生した放射性廃棄物はすべて、再処理を実施する25年のうちに再処理の契約をしている依頼国に返還されることになっています。
唯一の例外規定は、英国が国内に放射性廃棄物の貯蔵場所を開発した場合にのみ、セラフィールド再処理工場を運転しているBNFL(英国核燃料公社)が、あるレベルの核廃棄物をほかのレベルの核廃棄物に切り替えて返還することを認めるというものです。

このような核廃棄物の等価交換(キュリー交換とも呼んでいます)政策の下で、再処理依頼国が発生させた量以上に大量の高レベル放射性廃棄物が、その放射能の量に相当する中レベル、低レベル放射性廃棄物の代わりに、依頼国に返還されることになっていました。この中レベル、低レベル放射性廃棄物は英国に残されるはずでした。

1997年までBNFL(英国核燃料公社)は、核廃棄物の等価交換を引き受けようとしており、英国政府も以下のように語っていました。

「英国政府は、このことを、イギリスの環境への影響を低く押さえる核廃棄物の等価交換と認める。しかし、イギリスの中での適切な処分対策もないまま核廃棄物の等価交換を約束し、あとでその約束を撤回できなくて困ることのないよう慎重に検討する。
つまり、これからは、BNFLは低レベル放射性廃棄物の(高レベル放射性廃棄物との)核廃棄物等価交換手続きを開始してもよい。しかし、中レベル放射性廃棄物の等価交換については、海外顧客と締結したり実施したりするいかなる協定に関しても、Nirex(英国廃棄物処分公社・ナイレックス)の廃棄物貯蔵施設が建設計画の認可を受けたときに、ここに入れられる廃棄物の放射能量は適確に計算されているということを、顧客に確認させるという条件付きでなければならない。
さらに、こうした協定を結ぶということは、もし、Nirexの貯蔵施設が、BNFLが契約に従って放射性廃棄物を返還しなければならない時(顧客が承諾してから25年後)までに完成していなければ、返還されるべき中レベル放射性廃棄物があることも覚悟しておく必要があるということを意味する」
(英国、廃棄物政策、1995年)

しかし今では、核廃棄物の等価交換を適用することはできなくなりました。

ご承知のことと思いますが、Nirex(英国放射性廃棄物処分公社)の廃棄物貯蔵施設は英国政府の環境大臣ジョン・ガマー氏が在籍当時の内閣によって1997年に放棄されました。25年以内にこの施設の開発に手がつけられる見通しはありません。
そこで英国政府は廃棄物政策において日本を含むすべての海外放射性廃棄物は返還されねばならないと命じたのです。

明らかにこの廃棄物の返還計画は青森県にとって衝撃的なことでしょう。私たちの最大の懸念はこの状況が日本政府から青森県に知らされているかどうかということです。

私たちが計算ではじきだした日本の放射性廃棄物の数字によれば、来年以降青森に2,240回もの放射性廃棄物の輸送を必要とするというものでした。BNFL自身、核廃棄物の等価交換が行われなかった場合のことを以下のように認めています。
「(結果として)5,000回の放射性廃棄物輸送が英国核燃料公社の海外顧客のために行われることになるだろう」
(1994年8月、英国の再処理工場THORP(ソープ)のための
核廃棄物の等価交換及び総合毒性評価の適用のための
環境調査に関する情報、BNFL)

グリーンピースは、日本の電力会社が増加し続ける使用済み核燃料の貯蔵の問題という危機的状況に直面していることから、再処理再契約のためにBNFL(英国核燃料公社)とCOGEMA(仏核燃料公社)と協議に入ったことをキャッチしました。新しい再処理契約はもちろん、日本に返還されなければならないあらゆるレベルの放射性廃棄物と兵器転用可能なプルトニウムを多量に生み出すことになるでしょう。

英国における放射性廃棄物貯蔵管理の経験は、その他の国々と同じく、日本への貴重な教訓を含んでいます。
セラフィールドは40年前に再処理のセンターとしてつくられましたが、現在は地球上で最も多くの放射性廃棄物とプルトニウムを抱えています。将来、廃棄物処分施設にこれらのものを送るという見通しはまったくありません。こうして、はじめは中間貯蔵施設とされていた施設は長期間にわたり、ほとんど最終の場所になってしまったのです。

そしてこの同じ状況が、高価で危険なプルトニウム燃料(MOX)を自国の原子炉で生み出そうと考えている日本において進行中です。六ヶ所村の運命はセラフィールドと同様の道をたどることになるでしょう。

貯蔵上の問題では、六ヶ所村にすでに持ち込まれた高レベル放射性廃棄物の貯蔵における、ガラス固化体のキャニスター材質の問題があります。すでにこの問題は「ライマンレポート」として昨年お渡ししてあります。

私たちは、青森県はBNFL(英国核燃料公社)とCOGEMA(フランス核燃料公社)から放射性廃棄物の今後の返還について、日本政府から明快な回答を得ることが重要であると思っています。
私たちは日本の電力会社とBNFL、COGEMAとの新しい再処理契約が六ヶ所村の再処理に与えるであろう影響と同様に、Nirex(英国廃棄物処理公社)の貯蔵施設の失敗との関係を全面的に明らかにするという要求を日本政府に行うことをお勧めします。

グリーンピースは、欧州または日本における日本の使用済み核燃料の再処理は経済的にもエネルギーの見地からも、環境的および核拡散の見地からも、明らかに正当性がないものと思っています。再処理を続けるということは六ヶ所村の貯蔵に関わる問題を悪化させるだけであり、再処理による核廃棄物や使用済み核燃料が一度置かれたならば、それらはその場所にとどまるという状況を作り出してしまうことであります。

私たちは、そのようなこの核の悪夢が起きないようにするために、知事が行動を起こされることを強く要望いたします。

草々

1998年3月13日
グリーンピース・ジャパン
事務局長、志田早苗