[Next100 PROJECT – NEXT 100 Voice vol.3]
グリーンピース・ジャパンの事務局長サム・アネスリーが、様々な分野で活躍する方々と「100年後の未来に向けて、私たちはどんなアクションを起こしていくべきか」について語り合う本連載。第3回のゲストは、1976年、東京・原宿に日本初の自然食レストラン「MOMINOKI HOUSE」をオープンした、オーナー&シェフの山田英知郎さん。自然農法やマクロビオティックなどの「食」を通じて、社会のあり方も変えたいという思いで活動を続ける山田さんに、地球にとっても、人にとっても、健康でやさしい食とは何か、そのために私たちがすべきことなどを伺いました。
© Chiaki Oshima/Greenpeace

健康で、幸せになるための食事、マクロビオティック

サム みんなが健康的になれる料理を作られている「MOMINOKI HOUSE」さんのお話を聞いて、一度食べに来たいと思っていました。グリーンピース・ジャパンでは、野菜や豆中心のプラントベース(植物性)食へのシフトを呼びかけているので、色々とお話を伺えると嬉しいです。

そもそも山田さんがマクロビオティック(以下、マクロビ)に目覚めたきっかけは何だったのでしょう?

山田 もともと祖父も父も料理人だったこともあり、遊びながら料理を学び、食べることも、料理することも大好きな子どもでした。それで高校を卒業後、ホテルに就職したのですが、世界の食文化を学びたくなり、アメリカとロンドンで料理人として働きました。

サム 私も世界の食文化にすごく興味があります。
山田 ところがロンドンで栄養失調と過労で命が危うい状態になってしまいました。それでこれまで真面目に生きてきたけれど、命のことを真面目に考えたことがなかったことに気づきました。そこで日本古来の食養を元に、桜沢如一氏が提唱したマクロビを学ぼうと、日本に戻ってきたんです。

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サム マクロビは日本発祥のものだったんですね!マクロビを学んでどのような発見がありましたか?

山田 マクロビを勉強して気づいたことは、私たちは食べるものでできているということ。私は人を変えることはできませんが、食べ物は人を作りますから、食事で人を変えることはできる。健康になる食事を作り、みんなが健康になって幸せになれば、世界は幸せになると思ったんです。そこで1976年にこのレストランをオープンしました。

サム 素晴らしいですね! 山田さんのお料理は海外のビッグスターにも好評だと聞いています。

山田 「日本の自然食が食べたい」と言われて、ライブ会場まで出張しました。ジャネット・ジャクソンやポール・マッカートニー、ローリング・ストーンズ、デビッド・ボウイ……。スティービー・ワンダーはお店にディナーにも来て、演奏まで披露してくれたんですよ。

サム ボウイも!?それは羨ましいです!

マクロビオティックとヴィーガンの違いとは

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サム ところで、マクロビはベジタリアンやヴィーガンとは違うのでしょうか?

山田 違います。マクロビでは、よく肉や魚は食べちゃいけないと思われがちなのですが、健康な方は時々少量の白身魚や鶏肉を食べても大丈夫です。ただ、疾患がある方は動物性の食材を断った方がよいとされています。それとマクロビは日本の食文化が元になっていますので、玄米を主食にします。ちなみにサムさんは玄米を食べられますか?

サム 私はミックスして食べることが多いですね。

山田 ぜひ玄米を食べてください。これがステップ1です。次に大切なのが、自分が食べるものが、誰がどのように作ったものかを考えて選ぶこと。今はコンビニでも簡単にお弁当を買える時代で、便利になり、自分で料理をしなくなったことで、人々は何を食べているのか考える必要がなくなってきています。

サム 確かに切り離していますね。

山田 だけど便利な食事をするほど、病人が増えるんじゃないかと僕は危惧しています。

農薬、化学肥料、除草剤を使わない農業への転化が必要

山田 健康を危惧する理由は農法にあると考えています。現在、農業は大きく3つに分かれています。1つ目は農薬や化学肥料、除草剤を使う慣行栽培。日本の農業の99%がこの慣行栽培です。2つ目は農薬や化学肥料、除草剤は使わないけれど有機肥料を使うオーガニック。日本のオーガニック農家は1%ほどです。

サム 少ないですよね。

山田 欧米はもっと多いですよね。ドイツは2030年までに有機農地を20%の比率にまで上げることを宣言しています。

サム さすがドイツですね。

山田 そして3つ目が自然栽培。これは有機肥料も何も使わない農法で、私はこれが一番体に良いと思っています。

サム 実際日本には自然農法の農家さんはどれぐらいいるのですか?

山田 私が信頼できる農家は10名ほどですね。

サム そうなんですね。

山田 私は毎日、自然農法の野菜と玄米を食べていますが、これらの値段は非常に高いです。でも私は値段ではなく本質的な価値のあるものを大切にしています。

サム 将来的に疾病を抱えるリスクや医療費を考えたら、どちらにお金を払ったほうがいいかということになりますよね。

山田 そうですね。ただ、私はまず日本の農家さんには、農薬や化学肥料、除草剤を使わない農法にして欲しい。これが実現できたら、日本人は毎日リーズナブルで安全な食べ物が保証されます。

サム 社会の仕組みや当たり前が、より環境や健康、平和を脅かさない方法に根本から変わることは、私たちも重要だと考えています。

山田 できれば、お金があまりいらない社会にしたいですよね。安全な食べ物が毎日あって、寝るところがあれば、とりあえず生活できる。あとは好きなこと、やりたいことをやればいい。そうすればみんなハッピーになります。

サム 現代社会の資本主義に基づく経済モデルはもう限界に来ていると思います。農薬について言うと、グリーンピースも2016年に農薬についての研究をしたことがあります。オーガニックの野菜だけを10日間食べた際に、体内の農薬の濃度がどう変化するかを測りました。結果は明らかで、報告書を公表したところ、大きな反響を呼びました。

山田 日本の条例はとてもゆるいんですよね。例えば欧米では禁止されている農薬のネオニコチノイド系農薬は日本では当たり前に使われています。また除草剤のラウンドアップも欧米では禁止されていますが、日本はホームセンターで買えます。また欧米と比べても日本ではかなりの数の食品添加物が認可されています。化学物質だらけです。

サム 日本は欧米に比べると、遺伝子組み換え食品も多いですよね。食の安全性についてはまだまだ消費者が不安に感じることも多いように感じています。

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山田 原宿の街を見ていると分かるんですけど、街はきれいになって、世界中から人が訪れて、ファッションセンスも良くなったけれど、「食のセンス」は鈍くなっています。

サム 「食のセンス」って山田さんがよく使われている言葉ですよね。とても素敵な言葉です。

山田 みんなもっと「食のセンス」を磨いてほしいと思っています。

1人1人が気付き、望むことが未来の世界をつくる

サム 山田さんのお店は46周年なんですよね。グリーンピースも50周年を迎えて、この先の100年をどうするべきかを考える「NEXT 100 PROJECT」を立ち上げました。

山田 100年後を考えるというのはすごいですよね。

サム 山田さんのお話を伺っていて、食事も環境も一緒で、やはり症状ではなく、原因に目を向けなくてはいけない。マクロビでは、病気はあくまでも症状で、その原因は質の良くない食べ物を食べているからという考えですよね。

山田 そうですね。

サム 私たちも気候危機や生物多様性の喪失はあくまでも症状で、原因になっているのは現代社会の構造だと考えています。

山田 そうですね。私は100年後、世界中に病人がおらず、戦争がない、平和な社会にしたい。そのためにはひとりひとりの意識はすごく大切です。考えてみてください。今の世の中は人間が描き、作ってきた社会になっています。つまりひとりひとりが世界中の平和と健康的な生活を望み、描いたら、実現は可能ということです。そしてそのために正しい情報を発信していくことも大切です。

サム 本当にその通りです。私たちも緑豊かで平和な社会を実現するために活動をしていますが、我々の活動だけで、世界中の環境問題を解決することはできません。気候危機はみんなの人生に影響を与えることですから、ひとりひとりの考え方が大切です。

山田 そのためには問題意識に目覚めるきっかけが必要でしょう。日本は平和だから、まだまだ寝ている状態です。これは食べていいのか、食べない方がいいのかという判断もせず、習慣で、無意識に食べている人が多い。

まずは農薬や添加物を使った食材を買わないことや食べないことを気にしてみるということから始めてはどうでしょうか。小さなことですが、みんなが実行をすればきっと日本の食生活は変わっていくと考えています。私は、日本が自然栽培の国になることで、環境にも人にも優しい世界を実現したいと考えています。

サム 確かに今日聞いたお話は、ほとんどの人は知らないことだと思います。もしこの事実を知ったら、多くの人は自分の食生活を改善しようと思うはずではないでしょうか。

体にも地球にも優しい食の取り入れ方

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サム ところで山田さんが食べられているような自然栽培の野菜やお米はどこで買えるのでしょう。

山田 普通のスーパーではまず売っていません。オーガニックショップでは少しは売っているのかもしれませんが、確実なのはインターネットです。小規模な農家さんがネット販売をしていることもあるので検索してみてください。あとはうちのお店でも買えますよ。

サム それはいいですね! 普通のスーパーでも自然栽培の野菜やお米が手に入るようになるといいですよね

山田 そうですね。旬のものだけなので、いつも野菜が届いてから作るものを考えますね。

サム 最後に山田さんに100年後の未来へのメッセージをいただけますか。

山田 健康でいたい、幸せでいたいということは世界中の誰しもが考えているはずです。そのために基本はやはりいい水を飲むこと、いい塩をとること。そして種を大事にすること。種は次世代にバトンタッチするものですから。

サム なるほど、体と気持ちは切り離せないからこそ、両立をしていくことは大切ですね。「次世代にバトンタッチ」という点では、環境問題も人間が作った問題だからこそ、私たち人間が解決に向けて動く責任もありますよね。100年先の理想は自然とともに、人間らしく生きていくこと、そこにはお話をうかがった「食」についてもっと丁寧に向き合っていく必要があると改めて感じました。

いい水といい塩ですね!僕も取り入れてみたいと思います。

対談を終えて

山田さんのお話を伺って、人も地球も幸せで健康になるためには食が重要だということを実感しました。実際、便利で安い食品が溢れていることで、食事をただの消費行動だと捉えている人も多いかもしれません。山田さんは「地球に遊びにきた料理人」を名乗っています。私たちにとって本当に必要な食とは何かを山田さんから改めて学び、ひとりひとりが地球にも体にもより良い食を取り入れれば、きっと100年後の地球はもっと明るいものになっているでしょう。

みなさんは、100年後の地球のために、今日どんな行動をしたでしょうか。みなさんの声をお聞かせください。

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ゼロから学ぶ食と農業問題

「食」はあらゆる環境問題に大きく関わっています。世界中で人為的に排出される温室効果ガスの3分の1は「食」に関係し、工業型畜産は森林破壊の主要な原因です。自然環境や多様な生きものと共存する生態系農業へとシフトしていくべき時が来ています。食卓からみえる環境問題について、ぜひ知ってください。

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山田英知郎

東京生まれ。東京・芝パークホテルでフランス料理を習んだ後渡米し、米ペンシルベニア州で修行を続ける。その後、英国に渡り、ロンドンのローリーズ・レストランで働きながら勉学に勤しむ。帰国後、日本CI協会リマクッキング師範課程修了。1976年、東京・原宿に日本で初めての自然食レストラン「MOMINOKI HOUSE」をオープンし今年で45周年を迎える。NPO法人日本スローライフ協会理事、NPO法人ナチュラルフードプラネット理事長

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聞き手:サム・アネスリー(グリーンピース・ジャパン事務局長)
 
イギリス北アイルランド生まれ。17歳の時、高等学校の交換留学で1年間岡⼭県に滞在。その後英ケンブリッジ大学で日本語を専攻し、その間三重県皇學館⼤学で1年間神道学を学ぶ。 大学卒業後、南米やヨーロッパでの教育経験を経て、2007 年に日本へ。以来11年間、NGO「ピースボート」や親を亡くした⼦どもたちを支援する「あしなが育英会」、自殺予防に取り組むNPO「東京英語いのちの電話」の事務局長を経て2018 年12月より現職。趣味は山登り、スキューバダイビング、サイクリングなど自然の中で過ごすこと。好きな場所は南アルプスの甲斐駒ケ岳、八丈島など。


(取材・文:林田 順子)

[Next100 PROJECT – NEXT 100 Voice]
本対談では、グリーンピース・ジャパンが考える100年後の社会のあり方をお伝えしていくのはもちろん、多様な方の声を伺っていきます。私たちと一緒に辿り着くべき’未来への地図’を作り上げる道標となるのは、より良い社会を願う、一人ひとりの強い思いです。

vol.1 水原希子さん インタビュー
vol.2 二階堂ふみさん インタビュー
vol.3 山田英知郎さん インタビュー
vol.4 高橋悠介さん インタビュー
vol.5 小野塚彩那さん インタビュー