ロシア軍がウクライナに侵攻して1カ月以上経過しました。
軍だけでなく一般の市民にも大きな被害が発生、すでに数百万人のウクライナ人が安全のために故郷を離れています。
この戦時下で、国際環境NGOとしてグリーンピースはどんな活動をしているのかをご紹介します。

当たり前が当たり前じゃなくなる

グリーンピースは国際環境NGOとして、世界55の国と地域で活動しています。
11年前に東日本大震災が起きて、東京電力福島第一原発事故が起きて、世界中の注目が集まる中、グリーンピース各国オフィスから放射線の専門家が集結、すぐさま現地での放射線測定調査を開始しました。それはいまも続いています。

あのとき、日本だけでなく世界中の人が東北の人たちを心配し、皆さんの安全を、1日も早い復興を願っていました。
筆者は1カ月後に被災地での緊急支援活動に個人で参加しましたが、当時、活動拠点には電気も水道もなく、半径30キロ圏には病院も銀行も郵便局も食料品店もスーパーもコンビニもガソリンスタンドもありませんでした。
スイッチを押せば灯りが点いて、蛇口をひねれば水が出る、欲しいものはお金を出せば買える。そういう「あって当たり前のことなんか何もないんだ」ということが骨身に沁みました。

ウクライナの面積はおよそ603,500 km²とフランスより広く、ヨーロッパではロシア、カザフスタンに次ぐ大きさの国土をもつ。

いま、戦時下のウクライナの人々は、砲撃を避けるために地下で避難生活を送り、あるいは国外に避難先を求めて故郷を離れています。
ウクライナは旧ソビエト連邦の西の端、黒海の北岸に面した国で、緯度でいえば日本の北海道よりさらに北に位置しています。首都キーウ(キエフ)の4月の最低気温は5度。そんな寒さの中、インフラも流通も停滞する危機的状況での暮らしを強いられているウクライナの人々を、世界中の人が心配しています。
家族みんなが無事にいっしょに過ごせているのか、水や食べ物や生活用品は足りているのか、怪我や病気の手当ては行き届いているのか、ちゃんと眠れているのか…。
戦争は、平時には「あって当たり前」のものを、根こそぎ奪ってしまいます。

ウクライナでのグリーンピース

地元の医療機関と協力して行われた子どもたちの血液検査。1986年。

グリーンピースは旧ソ連時代だった1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故当時、キーウ(キエフ)で子どもたちの健康状態を調査する活動を実施しました。

以後も、現地での放射能調査は続いています。

被ばくによる健康被害のモニタリングや聞き取り、空間線量調査、サンプルの収集と計測・分析、原発近隣での森林火災の消火活動など、36年前の事故の影響を含め、グリーンピースの活動の中で、ウクライナは常に重視されてきました。

チョルノービリ(チェルノブイリ)での放射能調査。2005年。

現在はウクライナ国内に拠点を設けていませんが、近隣国のオフィスではできる限りの支援を行っています。
たとえば難民を出迎えて滞在先に送り届けたり、救命具や物資・備品を提供したり、医療サービスを提供できる医師のリストを確保するだけでなく、オフィスの中で難民が滞在できるスペースを解放、人道支援団体に拠点を貸し出したりといったサポートを実施
しています。

加えて、世界中のグリーンピースの放射線防護アドバイザーが24時間体制で、ウクライナ国内の原発を監視し、メディアへの情報共有をおこなっています。

原発の監視活動とは

現地に調査に行かなくても、オンラインでわかることがあります。
たとえばアメリカ航空宇宙局(NASA)は全世界の火災の発生状況を衛星でモニターしてオンラインで公表しています(こちらで誰でも閲覧できます)。
このウェブサイトで、ウクライナの原発周辺で火災が起きていないか(軍事衝突以外も含む)をチェックします。

SaveEcoBotの空間線量マップ

それから、ウクライナの民間組織「SaveEcoBot」が各地のモニタリングポストの計測値を公表していて、最新の空間線量がこのウェブサイトでいつでも確認できます。
このウェブサイトでは、大気汚染レベルや火災の発生、風向きもわかるので、放射能汚染の専門家である放射線防護アドバイザーなら、どの原発でいつどれだけの放射線が漏洩したら、それがどの地域にどんな速度でどれだけ拡散されるかをいち早く予測し、メディアや近隣地域への情報提供ができます。

交代制で、世界各地のグリーンピースの放射線防護アドバイザーが、これらの情報を10〜15分ごとにチェックします。ウクライナのメディアもウォッチして、原発の近くで軍事行動があったり、空襲警報が発令されたら、それもオンタイムでチーム内で共有します。
アクセスできる情報が少なくても、福島で続けてきた調査活動での経験が、ウクライナでも活きています。

ロシア軍に占拠されてから、残念ながらチョルノービリ(チェルノブイリ)原発周辺一帯のモニタリングポストからの通信は途絶えたままとなっています。
同じく、ロシア軍に制圧されたザポリージャ原発のモニタリングポストも機能しなくなっていますが、周辺のモニタリングポストの通信は生きています。

ウクライナ、キーウ州ズグロフカで放射能調査のサンプルを収集するグリーンピース。1998年。

有事に備えている原発はない

世界各地の原発は安全のために堅牢につくられてはいますが、ミサイル攻撃などの軍事攻撃を想定して建設されている原発はありません(商業用に限る)。
つまり、原発は、国家間で深刻な衝突が起きたときに、格好のターゲットになり得ます。

今回の戦争では、産油国であるロシアへの経済制裁によって化石燃料市場に変動が起こり、世界各地で燃料代や電気代の値上げが始まっています。
エネルギー価格が上がれば、あらゆるものの値段が上がるインフレが起こります。
最も影響を受けるのは、経済が輸出入に依存している国です。

すなわち、軍事衝突に直接関わっていなくても、日本の経済やものの流通は打撃を受けるし、原発は国家間の安全保障上の大きなリスクがあるといえます。

2022年2月26日、ドイツ・ベルリンでのグリーンピースの反戦デモ。

持続可能な再生可能エネルギーで平和をまもる

どこかからエネルギー源を調達するのではなく、地域に必要な電力はその場にあるエネルギーで発電し、廃棄物も少ない再生可能エネルギーなら、エネルギー市場の影響も受けず、軍事攻撃の対象にもなりにくく、いざというときにも地域のインフラを確保することができます。

よく「日本には資源がない」といわれますが、海に囲まれ、火山が多く、山も川もたくさんある日本には、豊富なエネルギー源が満ち溢れています。
できるだけ環境に負担をかけずに、温室効果ガスの排出も最低限に抑えたエネルギーで、これ以上の気候変動も安全保障の危機も心配しなくてもいい未来が実現できたら、素敵だと思いませんか。

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※外務省が一部地名の日本語呼称を現地語発音に変更したことに伴い、グリーンピース・ジャパンでも表記を変更しています