こんにちは。グリーンピース・ジャパン広報の河津です。

2018年8月30日に、カナダ連邦裁判所でトランスマウンテン・パイプライン拡張計画の承認を全会一致で否決するという判決のニュースが入ってきました!

グリーンピース・カナダも、このパイプライン拡張計画の反対を長年訴えていたので、グリーンピースの一員としてとても嬉しいニュースでした!

この勝利は、先住民の方のリーダーシップがあったからこそ掴めたものです。今年の3月には先住民族のリーダーと一緒に、10,000人もの人が、先住民族の神聖な土地とパイプライン建設予定地が及ぼす水資源への影響を訴えるために、カナダブリティッシュコロンビア州に集ったり、世界各地で様々な抗議がありました。

カナダの石油開発事業に待った!!先住民族と市民社会の戦いに光。

それでは、トランスマウンテン・パイプライン拡張計画と否決の意義についてお話したいと思います。

トランスマウンテン・パイプライン拡張計画って?

1953年に初めて建設されたトランスマウンテン・パイプラインは、2016年にカナダ政府の承認を得てアルバータ州エドモンドンからBC州メトロバンクーバーまでの今あるパイプラインの拡張計画が進められてきました。拡張されるパイプラインの長さは、約980キロメートルに及び、現在の1日あたり30万バレルから89万バレルにまで原油量を増やすことができるという計画でした。(注1)

経済効果や雇用創出など期待がされていたこの巨大プロジェクトに対し(注2)、パイプライン拡張建設地域の地元政府や市民団体、そして先住民族から以下の理由などから大きな反対がありました。

  • 温室効果ガス削減を決めたパリ協定実現から遠のいている

2030年温室効果ガス削減目標では、カナダも温室効果ガス削減を約束したものの、トランスマウンテン・パイプラインのような産業を拡張しては、実現どころか、化石燃料にさらに頼る産業を維持してしまうことになる。

  • 建設計画により地域の生態系を壊す恐れがある

カナダの石油開発事業に待った!!先住民族と市民社会の戦いに光。

地上・海洋輸送の際に事故等による原油漏れが懸念されています。特に、海洋汚染や騒音などは、絶滅危惧種そして食物連鎖のトップに立つと言われているシャチの生息地に被害を及ぼす可能性が大いにある。

  • 先住民族の権利がないがしろにされている

カナダの先住民族であるファーストネーションの居住地の近くをパイプラインが通過することで、先祖代々受け継がれてきた先住民族の土地や地域の生態系の被害が懸念されています。また先住民族の権利は、国際条約レベルで守られるべき権利であるため、国際的な非難が相次いでいる。

この建設計画は、トルドー(Justin Tredeau) 首相も、拡張計画はカナダの国益となると強いメッセージを発信していましたが、今回の連邦裁判所の判決により、見直しを余儀なくされています。

実際のところ悲しいことに、先住民の方々の土地は経済開発により奪われてしまっているという多くの事例があります。しかし、このような事例はカナダだけでなく、隣国の米国でもつい2016年に大きな話題となったのはご存知でしょうか?

ダコタ・アクセス・パイプラインにみる先住民族の土地搾取

カナダの石油開発事業に待った!!先住民族と市民社会の戦いに光。

ダコタ・アクセス・パイプラインは、アメリカ北中部のノースダコダ州とイリノイ州を巡る1886キロメートルを結ぶ石油パイプライン計画です。一度は建設は中止されたものの、2017年2月のトランプ大統領により建設再開が承認され、現在にいたります。

アメリカの先住民族のスタンディング・ロック・スー族の居留地の近くを石油パイプラインが通ることから、先住民の方だけでなく、世界中から彼らの神聖な水源を守るため建設反対を訴える抗議に参加している人々がいます。私自身も、大学在学中の2016年の9月に、大学の友人と抗議を行う人びとが集まるピースキャンプを訪れました。

キャンプでは、抗議に参加する人々のための住居作りを手伝ったり、食事提供の手伝いをしました。キャンプにはたくさんの支援物資が全米から届き、生活の知恵がたくさん詰まった立派なコミュニティーがありました。言葉で表すことが、今でも難しいのですが、どこか神聖な雰囲気が漂い、自然を愛する方々の神秘的なパワーを感じたことを今でも覚えています。

実際には、先住民族の方による祈りそして非暴力による平和的な抗議活動がされていたにもか関わらず、ホワイトボード書かれた逮捕者数がみるみるうちに増えていったことに、悲しくそして悔しい気持ちになりました。

アメリカでの抗議活動は、カナダでのパイプライン建設と類似したケースでした。守られるべき先住民そして自然を壊してまで、企業利益そして資源を優先することは、持続可能な地球を目指す新しい国際規範が作られようとする今、時代遅れではないでしょうか?

カナダの石油開発事業に待った!!先住民族と市民社会の戦いに光。

今回の判決の意義

今回のカナダの連邦裁判所の判決は、ファースト・ネーション(カナダの先住民族)のリーダシップが尊重され、そして絶滅危惧種の保護への動きなど、多くの意味を持つといえます。グリーンピース・ジャパンのプログラム・ディレクターのタマラ・スタークは「カナダ連邦裁判所の決定は、このパイプライン建設計画の闘いに完全な解決をもたらすものではありません。しかし、ファースト・ネーションの権利とリーダーシップが認識され、再確認されたことは大いに意義がある」とコメントしました。

このような判決が、世界の司法スタンダードとなることを、願いたいものです。私たちの生活に溢れる石油製品やエネルギー。その便利さと引き換えに、地球のどこかに住む人たちによって捻出されていることを、今回改めて知ってもらいたい、そのような思いでいます。

資本出資しているという、日本で銀行口座を持つわたしたちも加担してしまっているということになります。

参考(注1)

バンクーバー新報 トランスマウンテン計画 環境対策が不十分

参考(注2)

Trans Mountain Project Overview

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